著者
糸川 嘉則 斉藤 昇 森井 浩世 矢野 秀雄 小林 昭夫 木村 美恵子
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

本総合研究はマグネシウムの疾病予防に及ぼす影響について調査研究、実験的研究、臨床的研究など多方面から検討を加えたものである。食事調査の研究では単身赴任者など種々な階層についてマグネシウム摂取量を算出したが、どのグループの推奨摂取量の300mg/日に達せず、日本人はマグネシウム不足状態にあることが示唆された。動物実験ではマグネシウム欠乏状態が他のミネラルのアンバランスを起こすことが解明された。即ち、マグネシウム欠乏ラットはマンガン欠乏、鉄欠乏が誘発されることが解明された。また、高リン食ラットでは副甲状腺ホルモンの分泌が増加し、腎臓カルシウムの沈着、活性型ビタミンD_3が減少が起こるが、食餌中マグネシウム量を増加させるとこのような異常が改善することを明らかにした。寒冷に暴露された綿羊では血漿中マグネシウム濃度が上昇した。血漿中マグネシウム濃度とクレアチニン濃度の間に正の相関が認められたことより、腎臓の糸球体濾過量の減少が血漿マグネシウム濃度の増加の一因になったと思われる。PTH分泌が増加している5/6腎臓摘出ラットではマグネシウム欠乏により高カルシウム血症が認められた。また、マグネシウム欠乏腎不全ラットでは低カルシウム液の還流により、PTH分泌が上昇することを認めた。SHRSPを用いた研究では飲料水にマグネシウムを添加して与えると、脳血管障害の発展を防止することを解明した。臨床的な研究では女性の高血圧患者と糖尿病患者では尿中マグネシウム、カリウム、アルドステロン排泄量の間に密接な関連があることが観察された。シクロスポリン誘発低マグネシウム血症では血清マグネシウム濃度が低下し、尿中マグネシウム排泄量も減少した。しかし、リンパ球マグネシウム濃度は増加した。シクロスポリンはマグネシウムを細胞内に流入させる作用がある。陸上長距離選手は運動により尿中マグネシウム排泄量が低下した。
著者
斉藤 昇 島田 清司 塚田 光
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

鳥類の水分代謝機構の基礎的な解明と軟便などの家禽産業での問題点に対する解決策への応用として本研究を始めた。初めに、鳥類の抗利尿ホルモンであるアルギニンバソトシン(AVT)の遺伝子発現の機構を明らかにするために、急速な塩水投与を行い転写因子等の遺伝子発現等を解析した。その結果、AVT mRNAレベルは塩水投与後3時間に意な増加を示した。他に、c-fos mRNAレベルなども3時間後に増加した。それに対し、転写因子TonEBP mRNAレベルは、塩水投与後1時間に有意な増加を示した。この結果をもとに、TonEBPのアンチセンスを作成し、塩水投与前に前処理として脳室内に投与したところ、視床下部AVTの遺伝子発現は増加しなかった。しかし、c-fosの遺伝子発現には影響しなかった。この結果から、TonEBPがAVTの遺伝子発現調節に重要な転写調節因子であることが明らかになった。また、このようなAVT等の遺伝子発現機構が、塩水投与によりブロイラーでは影響が見られなかった。しがたって、ブロイラーで軟便が生じ易い理由が、AVTの遺伝子発現と関係がある可能性が示唆された。次に、腎臓における水の再吸収機構を解明するために、アクアポリンの遺伝子発現を調べた。AQP1、AQP2、AQP3、AQP4、AQP7、AQP9の6つのタイプで腎臓における発現が観察された。さらに、塩水投与により血中浸透圧が上昇した時における遺伝子発現の変化を調べたところ、AQP1、AQP2、AQP3のタイプのみが上昇し、他のタイプは、変化が見られないか減少した。したがって、ニワトリの腎臓における水の再吸収には、AQP1、AQP2、AQP3が主に関与していることが明らかになった。