著者
高槻 成紀 久保薗 昌彦 南 正人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.87-93, 2014-05-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
3

北アメリカからの外来哺乳類であるアライグマは1960年代に日本で逸出し、1980年代以降各地に生息するようになった。アライグマは水生動物群集に影響を及ぼすといわれるが、食性情報は限定的である。原産地では、水生動物も採食するが、哺乳類、穀類、果実なども採食する広食性であることが知られている。横浜市で捕獲された113のアライグマの腸内容物を分析した結果、果実・種子が約半量から50〜75%を占めて最も重要であり、次いで哺乳類(体毛)が10〜15%、植物の葉が5〜20%、昆虫が2〜10%で、そのほかの成分は少なかった。水生動物と同定されるものはごく少なく、魚類が春に頻度3.0%、占有率0.2%、甲殻類が春に頻度3.0%、占有率0.1%、貝類(軟体動物)が夏に頻度3.4%、占有率<0.1%といずれもごく小さい値であった。腸内容物は消化をうけた食物の残滓であることを考慮しても、水生動物が主要な食物であるとは考えにくい。アライグマが水生動物をよく採食し、水生動物群集に強い影響を与えているかどうかは実証的に検討される必要がある。
著者
南 正人 菊地 哲也 福江 佑子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.189-196, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
30

ニホンジカ(Cervus nippon)の増加に伴ってくくりわなの設置が全国的に増えている.くくりわなは,捕獲対象を限定できないために錯誤捕獲が発生し,アニマルウエルフェア上も問題が多く,くくりわなの使用の是非や設置法の改善などの検討が行われている.浅間山南麓の長野県軽井沢町で,くくりわなで捕獲されたニホンジカをツキノワグマ(Ursus thibetanus)が摂食する例が多く見つかった.ニホンジカの死体の残渣に執着し攻撃的になるツキノワグマも見られ,ニホンジカの捕獲従事者や山林利用者などにも危険な状態となっている.くくりわなの新たな問題として,その実態を報告する.2017年4月から2019年6月までに,ニホンジカ178頭(雄40頭,雌と幼獣138頭)とイノシシ(Sus scrofa)66頭(雄26頭,雌39頭,幼獣1頭)がくくりわなで捕獲された.そのうち,イノシシの幼獣1頭,ニホンジカの雌と幼獣64頭が,ツキノワグマによって摂食された.ニホンジカの雄やイノシシの成獣は全く摂食されなかった.さらに,摂食された動物のうち,イノシシの幼獣1頭とニホンジカの雌と幼獣39頭については土をかけられた土饅頭となっていた.2019年にはニホンジカを食べているツキノワグマが人間の接近にもかかわらず摂食を続け,時には威嚇することがみられるようになった.ツキノワグマがいる地域でくくりわなを設置する場合は,このような危険性があることを周知するとともに,このような危険性を考慮に入れてくくりわなの使用を検討する必要がある.
著者
福江 佑子 南 正人 竹下 毅
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.359-366, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
21
被引用文献数
4

近年,錯誤捕獲への懸念が示されてきたが,鳥獣保護管理法ではその報告義務がなく,行政による捕獲従事者の管理もないため実態は不明である.鳥獣行政体制を刷新し,捕獲情報を詳細に把握し始めた小諸市では,中型食肉目の錯誤捕獲が総捕獲数の29.8~53.0%を占め,殺処分につながっていた.4年間の錯誤捕獲842頭のうち,中型食肉目は608頭(72.2%)で,そのほとんどがくくりわなによるもので,殺処分されていた(551頭,90.6%).また,くくりわなによる個体の損傷も大きかった.狩猟鳥獣となっている中型哺乳類は有害捕獲の許可を得ていればくくりわなで捕獲し殺処分しても違法とならないこと,殺処分する方が作業者にとって安全で報奨金が得られる場合があることが,錯誤捕獲個体の殺処分につながっている.錯誤捕獲の実態を明らかにし,捕獲方法,生態系,個体への影響について,科学的側面,倫理的側面から議論する必要がある.
著者
川村 知裕 桃實 徹 舟木 壮一郎 別所 俊哉 新谷 康 井上 匡美 南 正人 中尾 篤典 奥村 明之進
出版者
一般社団法人 日本臓器保存生物医学会
雑誌
Organ Biology (ISSN:13405152)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.117-120, 2015-07-10 (Released:2016-04-01)
参考文献数
8

Because hydrogen provides potent antioxidative eff ects against acute lung injury, we hypothesized that treatment of organ donors with hydrogen during mechanical ventilation would reduce graft injury after lung transplant. Orthotopic left lung transplants were performed using an allogeneic rat model. Donors were exposed to mechanical ventilation with 98% oxygen plus 2% nitrogen or 2% hydrogen for 3 hours prior to harvest and the lung grafts underwent 4 hours of cold storage. The combination of mechanical ventilation and cold ischemia resulted in marked deterioration of gas exchange when the donors were ventilated with nitrogen, which was accompanied by upregulation of proinfl ammatory cytokines. These lung injuries were significantly attenuated by ventilation with hydrogen. Hydrogen induced heme oxygenase (HO)-1 in the grafts prior to implantation, which may contribute to protective eff ects aff orded by hydrogen. Hydrogen inhalation during ventilation prior to organ procurement eff ectively protected lung grafts from ischemia/reperfusion injury.
著者
南 正人
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.113-116, 2009 (Released:2009-07-16)
参考文献数
12
被引用文献数
1
著者
井上 匡美 新谷 康 中桐 伴行 舟木 壮一郎 須﨑 剛行 澤端 章好 南 正人 奥村 明之進
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.7, pp.799-804, 2013-11-15 (Released:2013-12-02)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

胸腺腫術後再発に対する標準治療はない.我々は再発後治療成績を明らかにすることを目的に遡及分析を行った.対象は当施設で手術を施行した胸腺腫190例中再発を認めた25例(13.2%).病理学的WHO分類は,type AB 2例,B1 2例,B2 9例,B3 12例,正岡病期は,I期3例,II期2例,III期9例,IVA期8例,IVB期3例.無病期間中央値は26.2ヵ月.初期再発部位は胸膜播種17例,縦隔局所6例,肺転移2例.再発後治療は,外科切除14例(播種切除20回,局所切除2回,肺転移切除1回,リンパ節郭清1回),化学療法10例,および放射線治療4例であった.全体の再発後3年・5年生存率はそれぞれ86%・79%で,切除例・非切除例の3年生存率はそれぞれ100%・68%であった(p=0.06).胸腺腫術後再発形式では胸膜播種が最も多く,再切除可能な症例では生存期間の延長が期待できる.
著者
奥村 明之進 南 正人 井上 匡美 川村 知裕 舟木 壮一郎 松浦 成昭 新谷 康 中桐 伴行
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

慢性閉塞性肺疾患COPDの新たな治療法の開発は急務であり、今回COPDに対する細胞治療を用いた再生医療を考案することを目的とした。COPD誘導マウスに対して、健常なマウスより脂肪幹細胞を分取し、経静脈的、経気管的に投与すると、移植細胞は障害肺へ集積し気腫肺を改善した。さらに、人工多能性幹細胞iPS細胞を様々な成長因子を用いて肺胞上皮細胞への分化誘導法を検討した。分化誘導した細胞を標識して、上記と同様に肺障害マウスへの移植を施行し、肺胞への生着および呼吸機能の改善を確認した。肺の再生医療を考案する上で、脂肪幹細胞やiPS細胞が重要なツールになり得ると考えらえた。
著者
南 正人
出版者
麻布大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

どのような個体が多くの子供を残せるのかを調べることは、適応と進化を論じるうえで重要である。長期に観察が続けられている個体識別されたニホンジカ(Cervusnippon)を対象に、繁殖成功とそれに影響を与える要因を分析した。なわばり雄の交尾数が多く、これらの雄の体重は重かった。しかし、劣位雄の一部も子供を残していた。雌の生涯繁殖成功度のばらつきは0-6で、体重と生存期間が影響していた。