- 著者
-
南 正人
菊地 哲也
福江 佑子
- 出版者
- 日本哺乳類学会
- 雑誌
- 哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
- 巻号頁・発行日
- vol.61, no.2, pp.189-196, 2021 (Released:2021-08-26)
- 参考文献数
- 30
ニホンジカ(Cervus nippon)の増加に伴ってくくりわなの設置が全国的に増えている.くくりわなは,捕獲対象を限定できないために錯誤捕獲が発生し,アニマルウエルフェア上も問題が多く,くくりわなの使用の是非や設置法の改善などの検討が行われている.浅間山南麓の長野県軽井沢町で,くくりわなで捕獲されたニホンジカをツキノワグマ(Ursus thibetanus)が摂食する例が多く見つかった.ニホンジカの死体の残渣に執着し攻撃的になるツキノワグマも見られ,ニホンジカの捕獲従事者や山林利用者などにも危険な状態となっている.くくりわなの新たな問題として,その実態を報告する.2017年4月から2019年6月までに,ニホンジカ178頭(雄40頭,雌と幼獣138頭)とイノシシ(Sus scrofa)66頭(雄26頭,雌39頭,幼獣1頭)がくくりわなで捕獲された.そのうち,イノシシの幼獣1頭,ニホンジカの雌と幼獣64頭が,ツキノワグマによって摂食された.ニホンジカの雄やイノシシの成獣は全く摂食されなかった.さらに,摂食された動物のうち,イノシシの幼獣1頭とニホンジカの雌と幼獣39頭については土をかけられた土饅頭となっていた.2019年にはニホンジカを食べているツキノワグマが人間の接近にもかかわらず摂食を続け,時には威嚇することがみられるようになった.ツキノワグマがいる地域でくくりわなを設置する場合は,このような危険性があることを周知するとともに,このような危険性を考慮に入れてくくりわなの使用を検討する必要がある.