著者
塩出 貴美子
出版者
奈良大学総合研究所
雑誌
総合研究所所報 (ISSN:09192999)
巻号頁・発行日
vol.19号, pp.92-124, 2011-03

筆者は先に奈良絵本の新たな一例として富美文庫所蔵の「ふしみときは」(以下、富美文庫本と称する)を紹介し、その藤園堂本とほぼ同じであること、一方、挿絵は西尾市岩瀬文庫所蔵の奈良絵本(以下、岩瀬文庫本と称する)と最も親近性があることを明らかにした。ただし、その時点では岩瀬文庫本の全容を把握していなかったが、その後の調査により、その図様の淵源は藤園堂本、さらにはサントリー本にまでさかのぼりうるであろうと考えるに至った。それは、つまり富美文庫本の図様の淵源もそこまで遡り得るであろうということである。本稿では、この点を明らかにするために、上記四作品の図様を比較する。また、併せて詞書あるいは本文と絵との関係を検討し、これらを通じて「ふしみときは」における絵巻と奈良絵本の関係を考察することにしたい。
著者
塩出 貴美子
出版者
奈良大学文学部文化財学科
雑誌
文化財学報 (ISSN:09191518)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.21-44, 2009-03

本稿で紹介する富美文庫蔵「ふしみときは」は、上下二冊からなる絵入りの写本である(以下、富美文庫本と称する)。内容は、平治の乱の後、源義朝の愛妾常盤御前が今若、乙若、牛若の三兄弟を連れて都落ちする途次、伏見の老夫婦のもとに逗留するというもので、これは舞の本のうちの一つである。舞の本というのは、室町時代後期から江戸時代初期にかけて流行した幸若舞の語り台本を読み物用に転用したもののことである。慶長年間には古活字版が、また寛永年間には製版本が刊行されており、その後も版行が繰り返されていることから、かなり広く普及したものと思われる。また、舞の本は絵巻や「奈良絵本」と通称される絵入本の題材にもなっており、多数の作例が伝存する。「ふしみときは」についても既に十数件の存在が確認されているが、富美文庫本はその新たな一例となるものである。本稿では、この富美文庫本の概要を紹介し、本文を翻刻するとともに、その特質について若干の考察を加えることにしたい。なお、富美文庫が所蔵する絵入本及び絵巻については、別に報告書を作成するので、そちらも併せて参照されたい。
著者
塩出 貴美子 中部 義隆 宮崎 もも
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

富美文庫所蔵の江戸時代の絵入本及び絵巻コレクションを調査し、その全容を明らかにした。同コレクションは絵入本10件27冊及び絵巻6件12巻からなり、その大半は奈良絵本・絵巻と通称されるものである。主題は古典、舞の本、お伽草紙、風俗に分類される。これらの全作品について、基礎データの収集、写真撮影、本文(詞書)の翻字、絵の分析等を行い、解題を作成した。また、一部の作品については個別に考察を加え、同主題の作品や様式的に近似する作品と比較した。