著者
塩崎 文雄
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.38, no.12, pp.1-12, 1989-12-10 (Released:2017-08-01)

泉鏡花の『春昼』『春昼後刻』には、不可解なメッセージ○△□が二度にわたって出現するばかりでなく、両者ともきわめて重要な挿話を形成している。それだけに、従来からその読みをめぐって、さまざまな解釈が試みられている。本稿は、○△□は鏡花の謡曲体験から生まれたものではないか。しかもそれは、母の遺愛の、<付帳>と呼ばれる大鼓の楽譜の図像体験に媒介され、培われたものではないか、といった仮説を提起したものである。
著者
塩崎 文雄
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.36, no.12, pp.22-32, 1987

谷崎潤一郎の『細雪』は「旧家の没落と戦争の始まり」といった<不可逆的な時間>が年ごとの花見に代表される歳事的なもの=<循環する時間>を制覇する物語として読まれてきた。だが、そうした近代的思惟の常識を顛倒する試みとして、『細雪』を捉え直すことができるので、その徴証として『細雪』における年代記的記述の稀釈化の問題はある。しかも、その問題は「時局」といった<天皇制>の一露頭とも厳しい緊張関係をもったのである。

1 0 0 0 OA 『蘆刈』余影

著者
塩崎 文雄
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.41, no.12, pp.48-61, 1992-12-10

『蘆刈』は谷崎潤一郎と根津松子の恋のゆくたてとその昂りを契機とする<女性崇拝>の物語として読まれてきた。あるいは『吉野葛』『少将滋幹の母』『夢の浮橋』等に貫く<母性憧憬>の水脈の一つとして位置づけられてもきた。さらには大和物語・増鏡・遊女記・江口・撰集抄等の借用された古典の吟味を経て、夢幻能的な世界に収斂されてゆく技法が評価されてきた。それに対して本稿は、<くにざかひ>からのまなざし、仮設された<十五夜>、作品の年立て、淀川河川改修史、巨椋池干拓史、京摂間諸川通航史、橋本遊廓沿革史の諸視角から、『蘆刈』に補注を施してみた。その際、作者の意図に添ったことがらも、必ずしもそうでないことがらもひとしなみに取り上げた。作品が書かれた<一九三二年現在>の京・大阪間の境界領域に『蘆刈』を浮べ、『蘆刈』の読みの可能性を励起してみようとの意図による。