著者
塩田 潤
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.35, 2017 (Released:2018-07-01)

2012 年に設立されたアイスランド海賊党が、近年大きな支持を受けている。長らく主要四党が安定した政党政治システムを築いてきたアイスランドにおいて、なぜこのような現象が起きているのだろうか。本稿では、同国におけるこれまでの閉鎖的な政治的意思決定プロセスへの応答という視点からアイスランド海賊党の台頭を検証する。戦後から1990 年代以降の新自由主義時代に至るまで共通する閉鎖的な政治的意思決定プロセスというアイスランドの政治文化は、2008 年の経済危機を招くひとつの要因となった。排除性の強いこれまでの政治への応答として近年ICT システムを用いて政治的意思決定プロセスにより幅広い人々を包摂しようと試みるアイスランド海賊党が支持されていると考えられる。
著者
塩田 潤
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.2_145-2_167, 2022 (Released:2023-12-15)
参考文献数
47

熟議と政党に関する従来の研究では、政党外での市民による熟議が政党形成に果たす役割について光が当てられてこなかった。本稿では、アイスランドにおける憲法改正のための市民熟議と新政党アイスランド海賊党との関係性を分析し、市民熟議が政党の組織化につながる契機について解明する。 アイスランドでは2008年の金融危機を背景に、2009年から2013年にかけて市民熟議を通した憲法改正の取り組みが行われた。憲法改正は失敗に至ったものの、その後に新憲法制定を中心政策に掲げるアイスランド海賊党が台頭した。本稿では、まず市民熟議がアイスランド海賊党の組織化に影響を及ぼす際の環境的条件として、政治的機会構造の変容を考察する。そのうえで、集合的アイデンティティに着目して憲法改正の市民熟議とアイスランド海賊党の組織化との連関を分析する。 アイスランドの市民熟議は、政党なき民主主義の最重要事例として従来取り上げられてきた。しかし、本稿の事例分析では市民熟議がアイスランド海賊党の組織化に寄与していることが明らかとなった。こうした分析結果をふまえ、本稿は市民熟議が政党中心の民主主義にとって推進力となりうると結論付ける。