- 著者
-
塩野 徳史
- 出版者
- 国立保健医療科学院
- 雑誌
- 保健医療科学 (ISSN:13476459)
- 巻号頁・発行日
- vol.72, no.2, pp.110-118, 2023-05-31 (Released:2023-06-16)
- 参考文献数
- 13
新型コロナウイルス感染症が全国に広まり,HIV検査機会が奪われたと言われている.同時にゲイコミュニティの中でも一時的に商業施設が休業や閉店が相次ぎ,クラブイベントも中止となった.そして三密を避ける等行動の自粛ムードは高まり,街が閑散となった時期もあった.それでも,保健所の業務逼迫により検査機会が中止となった時期は短く,予約制に移行した機関もあるが,現状ではほぼコロナ禍以前の状況に回復しつつある.しかし検査件数が伸び悩んでいる背景には,当事者の自粛意識や検査プロモーションの減少も一因であると考える.ゲイコミュニティの当事者にとって検査を受けたくても受けられない状況が続き,全国 6 ヶ所に設置されたコミュニティセンターとMSMを対象に予防啓発活動を継続している10NGOは,市販されている郵送検査キットを活用し対面やインターネットの広報により,検査機会の提供を行った.また 1 府4県では民間医療機関と協働し検査機会の提供を持続した.いずれの検査機会も実際の利用者実数はMSM全体からみれば少ないが,検査ニーズの高い層に届いている.郵送検査は全国では初めての取り組みとなったが,郵送検査会社と各地の当事者NGOが連携を図り,検査結果後のフォローアップもより良いものとなった.コロナ禍の中でも,MSM・ゲイコミュニティの調査結果よりPrEP利用は増加しており,安心して利用できる環境の整備や定期検査の潜在的なニーズは高まっている.また,コロナ禍以前よりコンドーム使用行動は低下しており,セーファーセックスに関する規範の担い手の意識が変容していることが懸念される.そのため,複合的に予防啓発を展開していく必要があり,これを持続的な活動とするには,コミュニティセンターやコミュニティで働く当事者ヘルスワーカーを育て,支える仕組みが必要である.