著者
境 睦 任 雲 Mutsumi Sakai Yun Ren
出版者
桜美林大学経営政策学部
雑誌
桜美林大学経営政策論集 (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.1-21, 2007-03

経営者報酬制度は日本企業のコーポレート・ガバナンス改革の文脈のなかで議論されていることからもわかるように、その重要性は年々高まっている。理由としては、経営者報酬と企業業績を連動させることにより株主と経営者との利害を一致させることが考えられる。つまり、業績連動型のインセンティブ報酬の導入により、経営者は株主利益に沿った経営を実施することになり、株主に対して多くの効用をもたらすかもしれない。経営者報酬によってエージェンシー問題を解決し、企業価値の最大化を達成するというシナリオである。インセンティブ報酬として、業績連動賞与あるいはストックオプションと自社の現物株付与などで代表される株式報酬が挙げられるが、そのなかでも中心的な役割をはたすのは後者であろう。そこで本稿では、日本の経営者報酬制度の変遷を顧みて、その改革の動向を概観し、株式報酬の効果と問題点について実証的かつ理論的な面から論じながら、今後の日本企業における経営者報酬制度の方向性について検討する。その結果、従来までのストックオプションと自社株式付与あるいは株式報酬型ストックオプションを組み合わせた複合型株式報酬は社会的厚生を高めることを証明した。実際に日本企業でのインセンティブ型報酬の導入は、株式報酬を中心に進展しており、今後もこの傾向は続くことが予想される。
著者
任 雲 境 睦
出版者
桜美林大学
雑誌
桜美林経営研究 (ISSN:21860173)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.35-52, 2011-03-20

本稿は金融危機中の米国の金融機関とくに生命保険業(以下、「生保業」という)の事例と日本の生命業の実態調査を分析することによって、金融危機後の日本における生保業のコーポレートガバナンスのあり方を検討する。主な研究結果は以下の通りである。まず、本稿は、金融危機中米国の金融機関のコーポレートガバナンスの状況を考察することを通じて、経営陣のリスクテイクレベルの上昇とそれに対する取締役会のガバナンスの欠如はコーポレートガバナンスの大きな問題であり、今回の金融危機の教訓であるとの結果を明らかにしている。次に、従来の日本の生命保険会社はリスクテイクに対して慎重であったが、金融危機の影響と相まって、生保業を巡る経営環境はかつて米国の1990年代の生保業が経験した状況と類似しており、今後、日本の生保業も否応なしによりリスクテイク的な経営行動を行わなければならず、リスクマネジメントの高度化が一層求められるという結論を得ている。第三に、米国の教訓と金融危機後のOECDとりわけCROフォーラムの提言に基づいて、日本の生保業の今後の存続と成長のためには、日本的なコーポレートガバナンスと調和した取締役会レベルでの、リスクマネジメントとコーポレートガバナンスを融合させた統合型リスクガバナンスの構築が必要であるとの結論に至っている。