著者
平田 潤
出版者
桜美林大学
雑誌
経営政策論集 (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-28, 2006-12

英国では1950年代以降、主にケインズ主義による総需要管理政策(財政・金融政策)と完全雇用追求、社会保障充実を基本政策とすることが、保守党・労働党を問わず、実質的な「政策の枠組み」となっていた。(Consensus Politics)しかし70年代石油危機を契機に、既に経済供給面に多くの構造問題を抱えていた英国ではスタグフレーションが亢進し、悲惨指数(インフレ+失業率)悪化、財政収支悪化、ストの頻発等に対する保守・労働党政権の政策が有効性を欠く中で、消費者の生活へのダメージが増大(78年、the Winter of discontent)する「政策危機」が進行していった。79年に成立したサッチャー政権は、深刻な政策危機から脱却するために、これまでのConsensus Politicsに囚われない、経済構造改革を断行した。改革は政策の有効性や効果において試行錯誤を含むものであった(当初目的未達成の政策や、効果が乏しい例も多かった)が、政策の一貫性と優先順位は明確であり、強力なリーダーシップにより長期にわたり国民の支持を取り付け、インフレ抑制、国営企業民営化や海外直接投資導入策、税制改革、労働組合政策、規制緩和(金融ビッグバン等)、行政改革(エージェンシー制の採用等)、成長軌道への復帰などに成果を挙げた。諸政策の実施面で、第一期(79〜83年)第二期(83〜87年)では、現実経済とのミスマッチは抑制されていたが、第二期後半から第三期(87〜90年)になると、通貨・金融政策の方向性に鮮明さを欠き、通貨ポンドのEMS加盟を巡る深刻な内部対立、87年以降の財政・金融緩和長期化に伴うインフレ再燃、経済のバブル化とその後の失速等、新たな問題が生じ、また改革の副作用ともいうべき、失業率の高止まりや所得格差拡大への対応は不十分な水準にとどまった。しかしながらサッチャー改革の「経済基本理念」はその後メージャー政権だけでなく、労働党ブレア政権にも「小さな効率的政府の追求の持続」、「伝統的な福祉依存からの脱却」などの理念として継承されている。
著者
野村 知子
出版者
桜美林大学
雑誌
経営政策論集 (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.87-112, 2003-12

本研究は、老人デイサービスの運営を住民が協力して担っている、本町田高齢者在宅サービスセンターが、開設する前に、どのような地域の活動や話し合いを行ったのかを、検討することで、「コミュニティ・エンパワーメント」をはかるプロセスを明らかにすることを目的としている。「コミュニティ・エンパワーメント」を高めたプロセスとして、次の15点があげられる。(1)住民参加による福祉施設運営という行政方針 (2)市の検討会により、住民の意見を公式化させる (3)実戦経験豊富なすぐれたリーダーの存在 (4)何もない地域であったこと (5)活動による実績づくり (6)地域の人が参加して運営内容を検討する場の設定 (7)月1回の話し合いの積み重ね (8)主体性が高まるような組織変更 (9)外部の専門家の支援 (10)参加者の気持ちとテーマに応じた話し合いの工夫 (11)祭やイベント、楽しみを話し合いの中に盛り込む (12)地域ニュースの発行 (13)地域ニーズを明らかにするアンケートの実施 (14)アンケートを通した地域の人材募集 (15)ミュニティ・ビジネス創造の機会
著者
内藤 錦樹
出版者
桜美林大学
雑誌
経営政策論集 (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.51-77, 2005-02

旅行業の原点は企画・集客・手配・添乗業務の一括請負からスタートしたものの、需要増に支えられて、それらの業務が拡大する中で分業化・分社化が進むとともに、便利なパッケージツアーとインターネットの普及等により、旅行会社はお客様との接点が少なくなる状況にあり、"消費者の旅行業離れ"を危惧する声が大きくなりつつある。そこで、お客様との接点を拡充する観点から、「旅行前」の申込み時点での相談業務の充実をはかるため、業界団体である旅行業協会等では「トラベル・カウンセラー制度」を2004年6月からスタートさせ、「旅行中」では添乗の重要性を再認識し、各社ベテラン添乗員を充ててお客様の満足度を高め、「旅行後」では趣味の各種クラブ活動の組織化・拡大化等をして、旅行業もサービス業からホスピタリティ業への進化をはかるため、その有用性を高めつつある。ホスピタリティとは「極めて質の高い満足度」と捉えると、まず、お客様との関係づくりの中から、発見したニーズをサービスに転換し、それで、お客様の満足と信頼に高めていくホスピタリティ活動へと、最終的には心の響き合う関係づくりをする経営、言い換えればマス・マーケティングからワン・トゥ・ワン(one-to-one:1対1の)マーケティングヘのCRM(Customer Relationship Management)戦略が、生き残りを目指す旅行業にも重要となっているということである。とはいえ、競合激化による低価格競争に加えて、テロ・戦争・新型肺炎等の連続で需要が急降下する業界ゆえ、契約社員拡大による人件費の変動費化や添乗員の外部委託化等により固定費の低減をはかりつつ、一定の利益確保が不可欠なため、旅行業はコストを抑える中で、ホスピタリティの発揮が求められている。本論文では、事例をあげ、ホスピタリティが直接収入増に結びつくわけではなく、むしろ、販売増によるスケールメリット発揮や集中送客、仕入れ業務、付帯販売業務等から収入増をはかるべきという考えに立っている。
著者
瀬沼 克彰
出版者
桜美林大学
雑誌
経営政策論集 (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.17-34, 2005-12

本論は、中世からの束縛から解放され、自由な精神の発生をもたらした1400年代のイタリアで始まり16世紀に終焉した巨大な文化運動であるルネサンス時代の余暇思想を追求する。はじめにこの時代の特徴を描いて、つぎに、この時代の人々の余暇活動がどのようなものであったかをさまざまな文献に当たって調べてみた。ルネサンス時代の余暇思想について言及した著作は、きわめて少ない。本論では、イングランドのトーマス・モアとイタリアのカンパネラにみる理想国家論の中にみられる余暇思想を考察したい。二人とも労働軽減説を唱え共通する内容が多く、当時の世の中には異端として受け入れられなかった。
著者
御子柴 清志 Kiyoshi Mikoshiba
雑誌
経営政策論集 = Business management review (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.109-126, 2005-02-01

人的サービスに依存する度合の大きいホスピタリティ産業にあっては、従業員の満足度が会社業績に直結する。従業員を内部顧客として捉え、従業員の満足度を向上させるために従業員満足度調査の導入を提唱したい。
著者
境 睦 任 雲 Mutsumi Sakai Yun Ren
出版者
桜美林大学経営政策学部
雑誌
桜美林大学経営政策論集 (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.1-21, 2007-03

経営者報酬制度は日本企業のコーポレート・ガバナンス改革の文脈のなかで議論されていることからもわかるように、その重要性は年々高まっている。理由としては、経営者報酬と企業業績を連動させることにより株主と経営者との利害を一致させることが考えられる。つまり、業績連動型のインセンティブ報酬の導入により、経営者は株主利益に沿った経営を実施することになり、株主に対して多くの効用をもたらすかもしれない。経営者報酬によってエージェンシー問題を解決し、企業価値の最大化を達成するというシナリオである。インセンティブ報酬として、業績連動賞与あるいはストックオプションと自社の現物株付与などで代表される株式報酬が挙げられるが、そのなかでも中心的な役割をはたすのは後者であろう。そこで本稿では、日本の経営者報酬制度の変遷を顧みて、その改革の動向を概観し、株式報酬の効果と問題点について実証的かつ理論的な面から論じながら、今後の日本企業における経営者報酬制度の方向性について検討する。その結果、従来までのストックオプションと自社株式付与あるいは株式報酬型ストックオプションを組み合わせた複合型株式報酬は社会的厚生を高めることを証明した。実際に日本企業でのインセンティブ型報酬の導入は、株式報酬を中心に進展しており、今後もこの傾向は続くことが予想される。
著者
河野 穣 Minoru Kohno
出版者
桜美林大学経営政策学部
雑誌
桜美林大学経営政策論集 (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.127-158, 2005-02

イタリアにおける団体交渉とその合意の中心は産業別全国労働協約である。これにくわえて労使のナショナル・センターレベルでのConfederazione間協定があり、さらに企業レベルの協定がある。イタリアにおける労使関係は他の工業先進国とくらべて変動の振幅が大きい。フランスの5月に端を発した学生の反乱がイタリアでは工場にまで波及し、1970年代には紛争継続型労使関係が多くの工場を覆った。こ型の労使関係が永続しえないことは容易に理解できることだが、この労使関係に終焉をもたらすには衝撃的な出来事が必要であった。1980年秋のFIATにおける大紛争での労働側の敗北がそれであった。80年代、90年代と新しい労使関係の枠組みを再生する動きがつづいてきた。このような労使関係の大きな変動がFIATにおける企業協定の内容にいかなる変化を刻印しているのかを検討するものである。
著者
木下 裕一 Yuichi Kinoshita
出版者
桜美林大学経営政策学部
雑誌
桜美林大学経営政策論集 (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-16, 2005-12

本論攻においては、アメリカ等の会計基準設定団体および国際会計基準審議会(IASB)が主張している包括利益、とりわけ、その他の包括利益の本質を解明することがその目的である。現代の会計基準は、収益費用アプローチから資産負債アプローチへと会計上の収益認識基準を転換した。その背景には、1990年代末に相次いだIT産業の収益計上をめぐる不正問題があり、その流れを決定づけたものが、2000年代に入ってのエンロン、ワールドコム等の巨額粉飾事件である。これらの事件を教訓として収益認識基準を厳格化する方向を目指すことは十分理解できる。しかしながら、その結果として会計学界が包括利益至上主義一色ともいえる状況にあることは理解し難いものがある。IASB等が主張する矛盾を含んだ包括利益に対する考え方に一石を投じ、稼得利益概念に近い当期純利益の優位性を主張するのが本論攻の目的であり、それこそが会計学研究に携わる者の使命と考えるものである。
著者
瀬沼 克彰
出版者
桜美林大学
雑誌
経営政策論集 (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.91-102, 2006-12

本論は、わが国の余暇学(Leisure Studies)に関して、この10年間(1996〜2005年)の研究成果をとりまとめたものである。余暇学は、スポーツ、遊び(娯楽)、学び(趣味、創作)観光の4つの分野を含んでいる。ここでは、余暇(レジャー)というキーワードを冠した単行本のみに限定してデータを収集し、分析した。本来、学会誌を含めた論文についても収集して分析しなければならない。単行本については、社会学的アプローチ17冊、経済・産業関係8冊が多く、哲学・歴史3冊、教育2冊という数字である。戦後60年の294冊に比べて、この10年間の刊行数は、まことに少なくなってきている。
著者
野田 秀三
出版者
桜美林大学
雑誌
経営政策論集 (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.23-45, 2007-03

平成9年(1997)以降の我が国の会社の組織再編成に関わる動向を明らかにし、企業結合法制と法人税法上の組織再編成税制とがどのように調整されてきたかを検討している。そこでは、企業結合会計と組織再編成税制とが一致している場合もあるが、組織再編成税制(合併、分割、現物出資、事後設立、株式交換、株式移転等)において、適格要件を満たしている場合は、帳簿価額による引継ぎで課税が繰り延べられているが、その場合の適格要件について明らかにしている。組織再編成税制において、適格要件を満たしていない場合は、時価譲渡となり資産等の移転に伴い、譲渡損益が生ずる。企業結合会計基準では、会社の組織再編成において、企業結合が取得である場合は、パーチェス法により被合併会社等を時価評価して引継ぎ、企業の持分の結合である場合は持分プーリング法により帳簿価額で引継ぐことになる。企業結合に係る組織再編成が行われた場合に、企業結合会計基準による会計処理と組織再編成税制における取扱いが異なることがある。そこで、企業結合会計基準と組織再編成税制の異同点を明らかにし、実務上では調整計算が必要となることを明示した。そして、企業結合会計基準と組織再編成税制との異同点並びに、今後の検討課題を明らかにしている。