著者
境 睦 任 雲 Mutsumi Sakai Yun Ren
出版者
桜美林大学経営政策学部
雑誌
桜美林大学経営政策論集 (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.1-21, 2007-03

経営者報酬制度は日本企業のコーポレート・ガバナンス改革の文脈のなかで議論されていることからもわかるように、その重要性は年々高まっている。理由としては、経営者報酬と企業業績を連動させることにより株主と経営者との利害を一致させることが考えられる。つまり、業績連動型のインセンティブ報酬の導入により、経営者は株主利益に沿った経営を実施することになり、株主に対して多くの効用をもたらすかもしれない。経営者報酬によってエージェンシー問題を解決し、企業価値の最大化を達成するというシナリオである。インセンティブ報酬として、業績連動賞与あるいはストックオプションと自社の現物株付与などで代表される株式報酬が挙げられるが、そのなかでも中心的な役割をはたすのは後者であろう。そこで本稿では、日本の経営者報酬制度の変遷を顧みて、その改革の動向を概観し、株式報酬の効果と問題点について実証的かつ理論的な面から論じながら、今後の日本企業における経営者報酬制度の方向性について検討する。その結果、従来までのストックオプションと自社株式付与あるいは株式報酬型ストックオプションを組み合わせた複合型株式報酬は社会的厚生を高めることを証明した。実際に日本企業でのインセンティブ型報酬の導入は、株式報酬を中心に進展しており、今後もこの傾向は続くことが予想される。
著者
河野 穣 Minoru Kohno
出版者
桜美林大学経営政策学部
雑誌
桜美林大学経営政策論集 (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.127-158, 2005-02

イタリアにおける団体交渉とその合意の中心は産業別全国労働協約である。これにくわえて労使のナショナル・センターレベルでのConfederazione間協定があり、さらに企業レベルの協定がある。イタリアにおける労使関係は他の工業先進国とくらべて変動の振幅が大きい。フランスの5月に端を発した学生の反乱がイタリアでは工場にまで波及し、1970年代には紛争継続型労使関係が多くの工場を覆った。こ型の労使関係が永続しえないことは容易に理解できることだが、この労使関係に終焉をもたらすには衝撃的な出来事が必要であった。1980年秋のFIATにおける大紛争での労働側の敗北がそれであった。80年代、90年代と新しい労使関係の枠組みを再生する動きがつづいてきた。このような労使関係の大きな変動がFIATにおける企業協定の内容にいかなる変化を刻印しているのかを検討するものである。
著者
木下 裕一 Yuichi Kinoshita
出版者
桜美林大学経営政策学部
雑誌
桜美林大学経営政策論集 (ISSN:13474634)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-16, 2005-12

本論攻においては、アメリカ等の会計基準設定団体および国際会計基準審議会(IASB)が主張している包括利益、とりわけ、その他の包括利益の本質を解明することがその目的である。現代の会計基準は、収益費用アプローチから資産負債アプローチへと会計上の収益認識基準を転換した。その背景には、1990年代末に相次いだIT産業の収益計上をめぐる不正問題があり、その流れを決定づけたものが、2000年代に入ってのエンロン、ワールドコム等の巨額粉飾事件である。これらの事件を教訓として収益認識基準を厳格化する方向を目指すことは十分理解できる。しかしながら、その結果として会計学界が包括利益至上主義一色ともいえる状況にあることは理解し難いものがある。IASB等が主張する矛盾を含んだ包括利益に対する考え方に一石を投じ、稼得利益概念に近い当期純利益の優位性を主張するのが本論攻の目的であり、それこそが会計学研究に携わる者の使命と考えるものである。