著者
境 雄大 須藤 泰裕
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.903-906, 2007-09-30 (Released:2008-08-29)
参考文献数
8
被引用文献数
4

極めてまれな胆汁漏出による腹膜炎の1例を報告する。症例は89歳, 男性で, 汎発性腹膜炎の診断で入院した。腹部CTで肝右葉から胆嚢周囲の液体貯留と胆嚢の虚脱を認めた。超音波ガイド下の腹腔穿刺で胆汁性腹水が採取され, 胆嚢穿孔による胆汁性腹膜炎と診断し, 緊急開腹術を行った。右上腹部に胆汁性腹水が貯留していた。胆嚢底部に壁の菲薄な部位を認めたが, 穿孔は不明であった。胆嚢以外に胆汁漏出の原因はなく, 胆嚢摘出術を行った。胆嚢底部に径1.3cm大の類円形の粘膜欠損があり, 病理組織学的に全層性の出血と壊死がみられた。胆嚢内に結石を認めなかった。採取した胆汁から細菌は検出されなかった。術後は多臓器不全に陥ったが, 第35病日に退院した。病理組織学的所見より胆嚢壁壊死部からの胆汁漏出が原因となった胆汁性腹膜炎と診断した。胆嚢壁壊死の原因として動脈硬化による循環障害が考えられた。
著者
境 雄大
出版者
Japanese College of Surgeons
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.145-149, 2008

症例は62歳,男性。全身倦怠感と腹痛を主訴に当院を受診し,内視鏡検査で胃体上部から幽門前庭部に不整形の腫瘍があり,生検で低分化腺癌と診断された。腹部CTで胃壁が著明に肥厚し,壁外性伸展を認めた。開腹すると胃体中部から前庭部に巨大な腫瘍があり,横行結腸間膜と膵臓に直接浸潤していた。腹水貯留と大網に結節性病変を認め,術中細胞診で癌性腹膜炎と診断した。胃全摘術を行った。T4,N1,H0,P1,CY1,M0,Stage IV,根治度Cであった。胃体部大彎を中心に18.5cmの壁外性発育を示す腫瘍があり,病理組織学的には裸核状の異型細胞がびまん性,充実性に増生し,ロゼッタ様の構築を認めた。免疫組織染色はシナプトフィジンとNSEが陽性,クロモグラニンが一部陽性で,神経内分泌細胞癌と診断した。術後,遺残腫瘍が急速に増大し,第52病日に死亡した。胃神経内分泌細胞癌は稀であり,他臓器浸潤を伴う壁外性発育の症例について文献的考察を加えて報告する。
著者
境 雄大 伊藤 博之 八木橋 信夫 大澤 忠治 原田 治
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.53-56, 2006

穿通性胸部外傷で手術を要する症例は多くはないが,致死的状況に陥る可能性がある。今回,われわれは胸部刺創による肺穿通性損傷の1救命例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。患者は52歳の女性。口論の末,右側胸部を包丁でさされた。包丁が右胸部に刺入された状態で当院救急外来へ搬入された。来院時,意識清明,右肺音減弱,右側胸部に包丁が刺入され,刺入部から気漏聴取した。周囲に皮下気腫を認めず。血圧142/68mmHg,脈拍94/min,酸素マスク5リットル投与下でSpO<sub>2</sub> 99%であった。来院時のヘモグロビン値は12.9g/dlであった。胸部X線及びCT検査にて包丁は肋骨を切離,右下葉を貫通し,胸椎近傍に達していたが,心大血管損傷は認められなかった。肺損傷の診断にて同日,緊急手術を施行した。分離肺換気下に後側方開胸を行った。包丁は第10肋骨を切離,左下葉を貫通し,第8肋骨の肋骨頚内に達していた。肺門部において血管・気管支を処理後に右下葉切除を行い,包丁を抜去した。術中出血量は1,110gであった。術中及び術後MAP血6単位を輸血したが,術後の病状は安定した。術後は創部の緑膿菌感染を認めた他は良好に経過し,第31病日に退院した。自験例においては心大血管損傷の有無を評価し,早朝に手術を開始する上でCTが有用であった。