- 著者
-
増井 三夫
- 出版者
- 上越教育大学
- 雑誌
- 上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, no.2, pp.271-285, 1996-03
従来,ネオナチ・ユーゲントの行動は「単独」であり,「計画され,他から操縦されたものは」少ないと見られてきた。そのうえ,ネオナチ組織の活動について言及する場合にも,それらは個別に取り上げられ,組織間相互の関係についてはいまだ未解明にちかかった。その理由は,ネオナチ組織と活動について,丹念な調査を欠いていたからである。だがこの数年に二つの貴重なデータが刊行された。それは,B.ジーグラーの調査とⅠ.ハッセルバッハのネオナチ内部世界の告自記録である。この両者により,ネオナチの裏面がかなり明瞭になった。とくにM.キューネンを「総統」とする指導者ネットワークの存在およびドイツ・アルタナティーベと旧来ベルリンの組織と活動は,上記の見方に大幅な修正を求めるものとなった。またネオナチ・ユーゲントは,国家社会主義イデオロギーに確信をもち,伝統的なドイツ市民社会の価値と国民主義の世界観に,一般市民および同世代よりもはるかに強烈に同一化していた。その行動は,この価値と世界観を「吐き出し,言語化し,行為で表現」するものであった。