著者
増田 茜 増田 雅美 関本 征史 根本 清光 吉成 浩一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-16, 2015 (Released:2015-08-03)

化学物質の曝露により肝細胞及び肝臓はしばしば肥大するが、その機序や毒性学的意義は不明である。肝細胞肥大の多くは薬物代謝酵素誘導を伴うことから、肝細胞肥大は一般に生体の適応反応と考えられている。しかし、我が国における農薬の安全性評価では、肝細胞肥大は毒性とされ、NOAEL及びADIの根拠となることもある。そのため、肝細胞肥大の毒性学的意義の解明が必要とされている。そこで本研究では、毒性試験公開データを利用した統計学的データ解析により、肝細胞肥大の毒性学的特徴付けを試みた。食品安全委員会で公開されている全266の農薬評価書をダウンロードした。このうちラット90日間反復投毒性試験結果が報告されていた196農薬の評価書から、試験で認められた全1032毒性所見を抽出した。各所見を、大項目(臓器・組織、血液学、血液生化学、尿・便、外観・行動、腫瘍・がん等)、中項目(所見・徴候、検査項目等)、小項目(部位・細胞、毒性学的特徴等)で分類し、それぞれの所見に7桁のコード番号を割り当てた。また、各毒性所見が認められたか否かを1(陽性)または0(陰性)としてデータシートを作成した。使用した196農薬のうち、雄では中心性肝細胞肥大は54農薬(28%)、びまん性肝細胞肥大は35農薬(18%)で認められた。雌でもほぼ同様の比率であった。さらに、カイ二乗検定(統計解析ソフトJMPを使用)の結果、肝細胞肥大の発現と複数の毒性徴候(肝重量増加、肝腫大、血中総タンパク増加、血中コレステロール増加、甲状腺肥大等)との間に有意な関連性が認められた。興味深いことに、中心性とびまん性の肝細胞肥大では、有意に関連する毒性所見が異なった。また一部では性差も認められた。なお、酵素誘導との関連が推察される甲状腺の所見は、中心性肝細胞肥大のみと関連した。以上本研究により、公開されている農薬の90日間反復投与毒性試験結果を利用することで、ラットにおける肝細胞肥大と他の毒性所見との関連性を解析可能なデータベースを構築し、肝細胞肥大の毒性学的特徴の一端を明らかにできた。