- 著者
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山本 一彦
- 出版者
- 日本毒性学会
- 雑誌
- 日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
- 巻号頁・発行日
- pp.EL3, 2015 (Released:2015-08-03)
生体は自己の抗原とは反応しないという、免疫寛容のシステムを有しているが、これが破綻すると自己免疫現象、自己免疫疾患が惹起される。免疫寛容の破綻の詳細は明らかでないが、1)隔絶抗原の免疫系への提示、2)分子相同性、3)自己の抗原の修飾、4)樹状細胞の活性化、5)制御性T細胞の機能障害など、様々なメカニズムが考えられている。そしてこれらのメカニズムの背景には、遺伝要因と環境要因が複雑に影響しあっているとされている。本講演では、自己免疫疾患の一つである関節リウマチ(rheumatoid arthritis, RA)を例にとり、その免疫寛容の破綻について考察したい。RAは、自己免疫応答に起因する慢性炎症性病態が複数の関節に生じて、進行性の破壊性関節炎にいたる病態である。RAの発症に遺伝的な背景があることは、疾患の多発家系が存在すること、一卵性双生児における発症の一致率が高いことなどから示唆される。遺伝要因の最大のものはHLA-DR遺伝子であり、遺伝要因の10-30%を説明可能とされている。それ以外の遺伝要因として最近のゲノムワイド関連解析で約100程度の遺伝子多型が明らかになっている。環境要因としては、性ホルモンや喫煙、感染などが挙げられているが、最近では喫煙がもっとも注目されている。RAにおけるもっとも特異性の高い自己抗体は抗シトルリン化蛋白抗体(ACPA)である。ACPAは発症前から認められることが多いので、シトルリン化蛋白に対するトレランスの破綻が発症前より起こっていると考えられている。環境因子である喫煙との相互作用に関して、喫煙者の気管支肺胞洗浄液ではシトルリン化酵素(PAD、遺伝子はPADI)の発現とシトルリン化蛋白の増加が見られることから、喫煙がシトルリン化された自己抗原に対する免疫応答を誘導している可能性が示唆されている。HLA遺伝子多型、PADI遺伝子多型と、免疫寛容の破綻についても考察したい。