著者
香川(田中) 聡子 大河原 晋 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.W3-4, 2015 (Released:2015-08-03)

生活環境化学物質がシックハウス症候群や喘息等の主要な原因あるいは増悪因子となることが指摘されているが、そのメカニズムの詳細については未解明な部分が多い。著者らは生活環境化学物質による粘膜・気道刺激性のメカニズムを明らかにする目的で、ヒトTransient Receptor Potential (TRP) V1及びTRPA1をそれぞれ安定的に発現するFlp-In 293 細胞株を樹立し、その活性化を指標にして室内環境化学物質の侵害刺激について検討した。これまでに評価した238物質のうち、50物質がTRPV1を、75物質がTRPA1を活性化することを明らかにした。なかでも溶剤として広く使用される2-Ethyl-1-hexanolやTexanolをはじめ、一般家庭のハウスダスト中からも比較的高濃度で検出されるTris(butoxyethyl) phosphate、溶剤や香料成分として多用される脂肪族アルコール類、実際に室内環境中に存在する消毒副生成物や微生物由来揮発性有機化合物がイオンチャネルを活性化することが明らかになった。特に、可塑剤等DEHPの加水分解物であるMonoethylhexyl phthalateがTRPA1の強力な活性化物質であることを見いだした。また、塗料中に抗菌剤として含まれ、室内空気を介してシックハウス様症状を引き起こすことが報告されているイソチアゾリノン系抗菌剤や、呼吸器障害を含む相談件数が増加している高残香性の衣料用柔軟仕上げ剤もイオンチャネルを活性化することが判明した。シックハウス症候群の主要な症状として皮膚・粘膜への刺激があげられるが、本研究結果は、室内環境中に存在する多様な化学物質がイオンチャネルの活性化を介して、相加的あるいは相乗的に気道過敏性の亢進を引き起こす可能性を示唆しており、シックハウス症候群の発症メカニズムを明らかにする上で極めて重要な情報であると考えられる。
著者
川畑 公平 川嶋 洋一 工藤 なをみ
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-77, 2015 (Released:2015-08-03)

【目的】フッ素化界面活性剤であるペルフルオロオクタン酸(PFOA)は難燃剤、乳化剤、撥水剤等に使用されてきたが、化学的に安定で環境中に残留し、また、ヒトにおける半減期が長いため、ヒトの健康への影響が懸念されている。PFOAをラットに投与すると、脂質代謝が広範に撹乱され、脂肪酸のβ酸化に関与する酵素が誘導されることが報告されている。一方で、ペルフルオロカルボン酸を投与すると肝臓にトリグリセリド(TG)が蓄積される。そこで本研究では、肝スライスを用いてPFOAにより脂肪酸のβ酸化が亢進するかを評価した。【方法】9週齢の雄性WistarラットにPFOA0.01% (w/w)含有飼料を1週間摂取させた。ラットより肝臓を採取し、precision cut sliceを調製し、Krebs-Henseleit buffer中で[14C]16:0また[14C]18:1n-9とインキュベートし、ex vivoで代謝物の生成速度を測定した。また、肝ホモジネートを用いて、in vitroでのミトコンドリアとペルオキソームのβ酸化活性を評価した。肝TGおよびリン脂質の量は、構成脂肪酸をGCで分析することにより定量した。【結果および考察】肝スライスを用いると、PFOA群における16:0および18:1n-9のβ酸化活性は、それぞれ対照群の約1.5倍、1.7倍に上昇した。ホモジネートを用いて評価したところ、16:0および18:1n-9のβ酸化活性はミトコンドリアでそれぞれ1.9倍、2.4倍、ペルオキソームでそれぞれ3.2倍、1.9倍に上昇した。PFOA群における肝臓中の総脂肪酸量は対照群と比較してむしろ有意に増加した。以上の結果より、PFOAを投与すると肝臓のβ酸化活性が上昇するにもかかわらず、肝臓中の脂肪酸量は低下しないことが明らかとなった。
著者
山本 一彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.EL3, 2015 (Released:2015-08-03)

生体は自己の抗原とは反応しないという、免疫寛容のシステムを有しているが、これが破綻すると自己免疫現象、自己免疫疾患が惹起される。免疫寛容の破綻の詳細は明らかでないが、1)隔絶抗原の免疫系への提示、2)分子相同性、3)自己の抗原の修飾、4)樹状細胞の活性化、5)制御性T細胞の機能障害など、様々なメカニズムが考えられている。そしてこれらのメカニズムの背景には、遺伝要因と環境要因が複雑に影響しあっているとされている。本講演では、自己免疫疾患の一つである関節リウマチ(rheumatoid arthritis, RA)を例にとり、その免疫寛容の破綻について考察したい。RAは、自己免疫応答に起因する慢性炎症性病態が複数の関節に生じて、進行性の破壊性関節炎にいたる病態である。RAの発症に遺伝的な背景があることは、疾患の多発家系が存在すること、一卵性双生児における発症の一致率が高いことなどから示唆される。遺伝要因の最大のものはHLA-DR遺伝子であり、遺伝要因の10-30%を説明可能とされている。それ以外の遺伝要因として最近のゲノムワイド関連解析で約100程度の遺伝子多型が明らかになっている。環境要因としては、性ホルモンや喫煙、感染などが挙げられているが、最近では喫煙がもっとも注目されている。RAにおけるもっとも特異性の高い自己抗体は抗シトルリン化蛋白抗体(ACPA)である。ACPAは発症前から認められることが多いので、シトルリン化蛋白に対するトレランスの破綻が発症前より起こっていると考えられている。環境因子である喫煙との相互作用に関して、喫煙者の気管支肺胞洗浄液ではシトルリン化酵素(PAD、遺伝子はPADI)の発現とシトルリン化蛋白の増加が見られることから、喫煙がシトルリン化された自己抗原に対する免疫応答を誘導している可能性が示唆されている。HLA遺伝子多型、PADI遺伝子多型と、免疫寛容の破綻についても考察したい。
著者
神戸 大朋
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.W2-2, 2015 (Released:2015-08-03)

メタロチオネイン(MT)は細胞質に局在し、有害金属毒性の軽減などに働く防御タンパク質として知られるが、亜鉛ホメオスタシス維持にも重要な役割を果たす。近年、このメタロチオネインの働きが、亜鉛トランスポーターの働きと密接に連携していることが明らかにされてきたが、最近、我々は両者の細胞質内亜鉛代謝における協調的な機能が、分泌型亜鉛要求性酵素の活性化に不可欠であることを見出した。 分泌型亜鉛要求性酵素の一つである組織非特異的アルカリフォスファターゼ(TNAP)は、小胞体やゴルジ体といった分泌経路に局在する亜鉛トランスポーター(ZnT5-ZnT6ヘテロ二量体とZnT7ホモ二量体)によって膜輸送された亜鉛を受け取り、活性化される。この過程において、それぞれの二量体は、細胞質内で受け渡された亜鉛を分泌経路内腔に送り込むが、その分子レベルでの知見は、これまで全く得られていなかった。我々は、MT欠損株において、細胞質亜鉛が上昇しているにも関わらず、TNAPの活性化が有意に減少していることを見出した。さらに、MTと同時に細胞質亜鉛の恒常性維持に重要なZnT1やZnT4といった亜鉛トランスポーターを欠損させる(3重欠損株)と、TNAP活性はほとんど検出されなくなった。この3重欠損株では、細胞質内亜鉛が野生株に比べて大きく上昇しているにも関わらず、TNAPを活性化できなかったが、過剰の亜鉛を添加することによって細胞質亜鉛濃度を著しく上昇させると、TNAP 活性は上昇した。また、3重欠損株におけるZnT5-ZnT6ヘテロ二量体とZnT7ホモ二量体の機能は正常であった。これらの結果は、MTを中心とした細胞質内亜鉛動態制御が、ZnT5-ZnT6やZnT7二量体を介したTNAPの活性化に機能することを示しており、MTによる細胞質の亜鉛代謝の厳密な制御が、分泌経路の亜鉛代謝にも重要な役割を果たすことを示している。
著者
藤田 郁尚
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.W3-3, 2015 (Released:2015-08-03)

私たちは、使用した時に不快な感覚を引き起こさない快適な化粧品を開発するため、感覚刺激の評価方法の確立を試みてきた。最近、温度感受性Transient Receptor Potential (TRP)チャネルが温度受容だけでなく、化学物質による侵害刺激にも重要な働きを示すことが明らかになってきた。その中でも唐辛子の辛み成分であるカプサイシンの受容体であるTRPV1、わさびや芥子の辛み成分であるイソチオシアン酸アリルの受容体であるTRPA1が、特に化学物質による痛み受容に重要な役割を持つ。これまで、皮膚上における感覚刺激へのTRPA1の関与について、様々な刺激要因を対象に研究を続けてきた。化粧品における感覚刺激の標準物質として用いられる防腐剤のパラベン類がTRPA1を活性化させ痛みを引き起こすことを見出してから、ヘアカラーの刺激の大きな原因であるアルカリ剤、化粧品に含まれる一価アルコールと、皮膚上の感覚刺激を引き起こす物質のTRPA1への関与を次々と明らかにしてきた。これと並行して、皮膚上の感覚刺激を軽減するためのTRPA1抑制剤の探索も行い、ユーカリオイルの主成分である1,8-シネオールにTRPA1抑制効果があることを見出した。最近では、皮膚上の冷感覚が外部温度に影響を受ける現象に冷受容体であるTRPM8のチャネル自体の特性が関与すること、つまり、事前暴露温度によってTRPM8の冷閾値が変化し得ることを見出した。これら、これまでの研究内容に、直近の研究成果を含めて報告したい。
著者
河原田 一司 是石 裕子 労 昕甜 上田 忠佳 住田 能弘 大津 見枝子 明石 英雄 出澤 真理 Luc GAILHOUSTE 落谷 孝広
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-202, 2015 (Released:2015-08-03)

【背景/目的】近年、ヒト初代肝細胞に替わる細胞として、多能性幹細胞から分化誘導・成熟化した肝細胞の利用が検討されている。我々は、間葉系組織に存在する多能性幹細胞「Muse細胞」に注目し、効率的な肝前駆細胞への分化誘導法を検討した。一方、我々はこれまでに、肝臓の成熟過程に関与するmicroRNAを網羅的に解析した結果、microRNA-148a(miR-148a)が肝細胞の成熟化を促進することを明らかにしている。そこで、Muse細胞を肝前駆細胞へ分化誘導し、得られた肝前駆細胞にmiR-148aを作用させ、肝細胞の成熟化を試みた。【方法】ヒト骨髄由来間葉系細胞からSSEA3陽性のMuse細胞を単離した。Muse細胞に発現する遺伝子Xを抑制し、分化誘導因子と組み合わせ肝前駆細胞への分化誘導を試みた。次に、分化誘導した肝前駆細胞にmiR-148aを作用させ成熟化させた。Muse細胞由来肝細胞にCYP酵素誘導剤を添加し、酵素誘導能を評価した。【結果】Muse細胞に発現する遺伝子Xを抑制することで、AFP、ALB、CK18、CK19陽性の肝前駆細胞への分化誘導を確認した。また、Muse細胞由来肝前駆細胞にmiR-148aを作用させることにより、肝特異的遺伝子の発現量は上昇し、miR-148aによる成熟化の促進を認めた。以上の結果から、肝細胞を誘導する出発の幹細胞として、Muse細胞の有用性が示唆された。今後は、フェノバルビタールやリファンピシンによるCYP2B6やCYP3A4誘導能のデータを得ることで肝毒性・薬物動態評価系への応用性を検討する予定である。
著者
佐々 友章 西岡 亨 舞原 文女 本多 泰揮 山根 雅之 森田 修 西山 直宏
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-208, 2015 (Released:2015-08-03)

国際的な化学物質管理に関する戦略的アプローチ(SAICM)に沿って化学物質を適正に管理するためには、化学物質の有害性と暴露を定量的に評価し、ヒト健康と環境影響に関するリスクを科学的に解析することが重要である。直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)は、衣料用洗剤に配合される陰イオン性界面活性剤である。LASは近年、化審法優先評価化学物質に指定されたほか、環境省の水生生物保全環境基準に追加されたことにより、その河川水中濃度や環境影響への関心が高くなっている。一般に、河川などに存在する化学物質の実態把握はモニタリング調査により行われるが、環境濃度推定モデルを用いることでより広範囲かつ短時間に環境濃度を把握することが出来る。今回演者らは、(独)産業技術総合研究所が開発した水系暴露解析モデル AIST-SHANEL (以下、SHANEL) を用いてLASの河川水中濃度を日本国内全ての一級河川109水系を対象に推定した。SHANEL によって得られた推定値とモニタリング値はFactor 10(10分の1から10倍の範囲)で良好に一致することを確認した。一致性の低かったごく一部の地点については、同一地点における継続的な環境濃度の推移や汚水処理施設の普及状況などから要因を調査した。その結果、得られたLASの推定値は、水生生物に対する予測無影響濃度や環境省が定めた水生生物保全環境基準値を下回ることが明らかとなった。暴露実態の解析手法および解析結果に基づくヒト健康および環境リスクアセスメントについて議論する。
著者
増田 茜 増田 雅美 関本 征史 根本 清光 吉成 浩一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-16, 2015 (Released:2015-08-03)

化学物質の曝露により肝細胞及び肝臓はしばしば肥大するが、その機序や毒性学的意義は不明である。肝細胞肥大の多くは薬物代謝酵素誘導を伴うことから、肝細胞肥大は一般に生体の適応反応と考えられている。しかし、我が国における農薬の安全性評価では、肝細胞肥大は毒性とされ、NOAEL及びADIの根拠となることもある。そのため、肝細胞肥大の毒性学的意義の解明が必要とされている。そこで本研究では、毒性試験公開データを利用した統計学的データ解析により、肝細胞肥大の毒性学的特徴付けを試みた。食品安全委員会で公開されている全266の農薬評価書をダウンロードした。このうちラット90日間反復投毒性試験結果が報告されていた196農薬の評価書から、試験で認められた全1032毒性所見を抽出した。各所見を、大項目(臓器・組織、血液学、血液生化学、尿・便、外観・行動、腫瘍・がん等)、中項目(所見・徴候、検査項目等)、小項目(部位・細胞、毒性学的特徴等)で分類し、それぞれの所見に7桁のコード番号を割り当てた。また、各毒性所見が認められたか否かを1(陽性)または0(陰性)としてデータシートを作成した。使用した196農薬のうち、雄では中心性肝細胞肥大は54農薬(28%)、びまん性肝細胞肥大は35農薬(18%)で認められた。雌でもほぼ同様の比率であった。さらに、カイ二乗検定(統計解析ソフトJMPを使用)の結果、肝細胞肥大の発現と複数の毒性徴候(肝重量増加、肝腫大、血中総タンパク増加、血中コレステロール増加、甲状腺肥大等)との間に有意な関連性が認められた。興味深いことに、中心性とびまん性の肝細胞肥大では、有意に関連する毒性所見が異なった。また一部では性差も認められた。なお、酵素誘導との関連が推察される甲状腺の所見は、中心性肝細胞肥大のみと関連した。以上本研究により、公開されている農薬の90日間反復投与毒性試験結果を利用することで、ラットにおける肝細胞肥大と他の毒性所見との関連性を解析可能なデータベースを構築し、肝細胞肥大の毒性学的特徴の一端を明らかにできた。
著者
萩原 正敏
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S16-3, 2015 (Released:2015-08-03)

患者の染色体や遺伝子の異常に起因する先天性疾患に対して、mRNAレベルで病態に影響を与える化合物を見つけ、症状の発現を抑えることは論理的に可能である。TG003のような特異的な蛋白リン酸化酵素阻害剤は特定のmRNAのスプライシングパターンだけを変化させる。最近我々は、TG003を使ってジストロフィンの変異部位を含むエクソンのスキッピングを促進することで、ジストロフィン蛋白の発現を亢進させ、デュシェンネ型筋ジストロフィーの薬剤治療が可能であることを示した。一連のリン酸化酵素阻害剤の開発途上で、抗ウイルス薬、疼痛抑制薬、加齢横班症治療薬などを見出した。一方で我々は、エクソンの選択的使用に応じてGFP/RFP等異なる蛍光タンパク質が発現するスプライシングレポーター技術を開発し、スプライシング制御因子の同定を進めてきた。その独自技術を発展させて、家族性自律神経失調症(Familial Dysautonomia)の原因遺伝子であるIKBKAPのスプライシング異常を可視化するスプライシングレポーターを作製し、家族性自律神経失調症の病態解明を行うとともに、異常スプライシングを是正できる低分子化合物RECTASを見出した。RECTASを患者細胞に投与すると病態が改善し、この遺伝病も薬物治療が可能であることが判明した。このように染色体や遺伝子に異常があっても、そこから発現するmRNAに影響を与える化合物によって症状の発現を抑え得る。我々は、独自のトランスクリプトーム創薬技術をさらに発展させ、難治のウイルス性疣贅治療薬の臨床試験に向けて準備を進めている。当然ながら標的遺伝子以外のmRNAも創薬候補化合物投与の影響を受ける。トランスクリプトーム創薬における毒性を如何にして評価すれば妥当であるのか、この場を借りて議論したい。
著者
高野 裕久
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S8-1, 2015 (Released:2015-08-03)

近年、アレルギー疾患に代表される生活環境病や、肥満、糖尿病を代表とする生活習慣病が激増し、新たな現代病となっている。これらの悪化、増加要因としては、遺伝要因よりむしろ環境要因の急変が重要と考えられており、種々の環境要因の中でも、日々増加しつつある環境化学物質や粒子状物質などの環境汚染物質が及ぼす影響に注目が集まっている。一方、環境汚染物質に対して影響を受けやすい高感受性・脆弱性群が存在することも指摘されている。例えば、粒径2.5μm以下の微粒子(PM2.5)に関し、疫学的な報告では、呼吸器系、免疫系や循環器系、代謝系の疾患を持つ人、特に、気管支喘息や気管支炎、虚血性心疾患や糖尿病の患者さんの症状が悪化しやすいことが報告されている。この事実は、アレルギーをはじめとする生活環境病や糖尿病等の生活習慣病の患者さんが、ある種の環境汚染物質に対し、高感受性、あるいは、脆弱性を示すことを示唆するものと考えられる。現在、わが国を含む先進国においては、高毒性物質の曝露や環境汚染物質の大量曝露の可能性は減じている。しかし、低毒性物質の少量曝露は普遍的に広がり、ありふれた疾患である生活環境病や生活習慣病の増加・悪化との関連が危惧され始めている。本シンポジウムでは、ありふれた環境汚染物質が、ありふれた現代病(生活習慣病やアレルギーを代表とする生活環境病)を悪化・増加させうるという実験的検証と増悪メカニズム解明の現状・進展を紹介し、環境毒性学に新たな視点を加える。本講演はそのイントロダクションの役を担う。
著者
五十嵐 芳暢 中津 則之 青枝 大貴 石井 健 山田 弘
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-197, 2015 (Released:2015-08-03)

アジュバントデータベースプロジェクトでは、各種アジュバントを投与した動物の網羅的遺伝子発現情報を取得解析したデータベースを構築している。アジュバントとは抗原とともに投与することで、抗原に対する免疫原性を増強、加速、延長する免疫増強製剤の呼称である。しかし、これまでアジュバント自体の作用メカニズムについては、明らかではない部分が大きかった。そこで、アジュバント単体を投与したラットの脾臓、肝臓等の網羅的遺伝子発現情報を取得することによって、アジュバントの副作用や毒性および作用メカニズムを探索、評価することを目指している。一方、これまでトキシコゲノミクスプロジェクトでは、薬剤を投与したラット肝臓や腎臓の遺伝子発現情報を用いた毒性予測モデルを構築してきた。これら毒性予測モデルにアジュバント投与の遺伝子発現情報を適用することによって、アジュバント単体の安全性や毒性、作用メカニズムを評価できる可能性がある。本報告では上記毒性予測モデルに改良を加え、外部データによって再評価したモデルと、その予測モデルにアジュバント投与の遺伝子発現情報を適用した例について紹介する。