著者
吉成 浩一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.5, pp.285-288, 2009 (Released:2009-11-13)
参考文献数
12

薬物動態学的な相互作用の多くは代謝に関連したものであり,その大半はチトクロムP-450(CYP)の酵素阻害に基づくものである.CYPの阻害様式は,1)複数の基質による競合阻害,2)薬物の窒素を含む複素環がCYP活性中心のヘム鉄に配位することによる非特異的阻害,3)反応性に富む代謝物がCYPと複合体を形成することで不可逆的に酵素を不活性化する阻害,に大別される.CYP阻害に基づく相互作用は,治療効果の変化や重篤な副作用の発現に繋がることがある.したがって,より安全な医薬品の開発には,代謝に関わるCYP分子種の同定と共に,CYP阻害作用が欠かすことのできない評価項目となっている.本稿では,CYPの阻害様式と阻害に基づく相互作用の発現機序について,具体例を挙げて解説するとともに,創薬における相互作用評価法について簡単に紹介する.
著者
吉成 浩一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.654-658, 2014 (Released:2016-09-17)
参考文献数
12
被引用文献数
1

薬物代謝は,化学物質(医薬品や食品成分,環境汚染物質等)の体内からの消失に主要な役割を果たしており,この過程には薬物代謝酵素と総称される多数の酵素が関与する.薬物代謝酵素の大きな特徴として,基質特異性の低さと化学物質の曝露に伴う酵素量の増加(酵素誘導)が挙げられる.ヒトが曝露され得る化学物質の種類は無限であり,それらを速やかに解毒する必要があることを考えると,このような性質は非常に都合がよい.一方で,このような性質は薬物代謝過程における薬物―薬物間および薬物―食品間の相互作用の原因となる.薬物相互作用は様々な機序で生じるが,本稿では,薬物代謝酵素がかかわる薬物相互作用について,発現機序を中心に概説する.
著者
畑 竜也 宮田 昌明 吉成 浩一 山添 康
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20018, 2011 (Released:2011-08-11)

胆汁酸の肝内濃度上昇は細胞を障害し、肝障害を誘起する。このため、肝内の胆汁酸レベルは厳密に制御されている。肝内胆汁酸レベルは、肝臓におけるコレステロールからの胆汁酸の合成調節によって維持されている。近年、胆汁酸合成を抑制する因子として、回腸で発現するfibroblast growth factor (FGF) 15/19が注目されている。最近当研究室では、マウスへの抗菌薬投与時に認められる肝内胆汁酸レベルの上昇に、ヒトFGF19の相同分子種であるFGF15の発現低下が関与することを明らかにした。FGF15/19の発現は胆汁酸によって調節されると考えられているが、転写レベルの発現調節の機序に関しては不明な点が多い。そこで、本研究では、胆汁酸による転写レベルのヒトFGF19の発現調節を検討した。FGF19遺伝子のプロモーター領域約9 kbを含むレポーターコンストラクトを作製し、ヒト結腸がん由来LS174T細胞を用いてレポーターアッセイを行った。ヒトの主要胆汁酸のchenodeoxycholic acid (CDCA)を単独処置した時、コントロール群に比べて明確な応答が見られなかったが、同時に胆汁酸をリガンドとする核内受容体のfarnesoid X receptor (FXR)を細胞に発現させると、CDCA処置時に応答が見られた。次に、約9 kbのプロモーター領域を段階的に欠失させ、応答を解析したところ、複数の胆汁酸/FXR応答領域の存在が示唆された。また、ゲルシフトアッセイによりFXRの結合が確認された。さらに、本研究で見いだした胆汁酸/FXR応答領域とこれまでに報告されているFGF19遺伝子の第2イントロン上のFXR結合配列が胆汁酸によるFGF19遺伝子の転写活性化に対しどの程度寄与しているかレポーターアッセイにより検討した。その結果、本研究で見いだした胆汁酸/FXR応答領域を含むプロモーター領域のコンストラクトではCDCA/FXRで約8倍、第2イントロンを含むコンストラクトでは約4倍活性が上昇した。さらに、両コンストラクトを同時につなげた時は約16倍活性が上昇し、相乗的な作用が見られた。以上の結果より、胆汁酸はFXRを活性化し、第2イントロンのFXR結合配列のみならずプロモーター領域の複数のFXR応答領域を介して相乗的にFGF19遺伝子の転写を亢進している可能性が示された。
著者
増田 茜 増田 雅美 関本 征史 根本 清光 吉成 浩一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-16, 2015 (Released:2015-08-03)

化学物質の曝露により肝細胞及び肝臓はしばしば肥大するが、その機序や毒性学的意義は不明である。肝細胞肥大の多くは薬物代謝酵素誘導を伴うことから、肝細胞肥大は一般に生体の適応反応と考えられている。しかし、我が国における農薬の安全性評価では、肝細胞肥大は毒性とされ、NOAEL及びADIの根拠となることもある。そのため、肝細胞肥大の毒性学的意義の解明が必要とされている。そこで本研究では、毒性試験公開データを利用した統計学的データ解析により、肝細胞肥大の毒性学的特徴付けを試みた。食品安全委員会で公開されている全266の農薬評価書をダウンロードした。このうちラット90日間反復投毒性試験結果が報告されていた196農薬の評価書から、試験で認められた全1032毒性所見を抽出した。各所見を、大項目(臓器・組織、血液学、血液生化学、尿・便、外観・行動、腫瘍・がん等)、中項目(所見・徴候、検査項目等)、小項目(部位・細胞、毒性学的特徴等)で分類し、それぞれの所見に7桁のコード番号を割り当てた。また、各毒性所見が認められたか否かを1(陽性)または0(陰性)としてデータシートを作成した。使用した196農薬のうち、雄では中心性肝細胞肥大は54農薬(28%)、びまん性肝細胞肥大は35農薬(18%)で認められた。雌でもほぼ同様の比率であった。さらに、カイ二乗検定(統計解析ソフトJMPを使用)の結果、肝細胞肥大の発現と複数の毒性徴候(肝重量増加、肝腫大、血中総タンパク増加、血中コレステロール増加、甲状腺肥大等)との間に有意な関連性が認められた。興味深いことに、中心性とびまん性の肝細胞肥大では、有意に関連する毒性所見が異なった。また一部では性差も認められた。なお、酵素誘導との関連が推察される甲状腺の所見は、中心性肝細胞肥大のみと関連した。以上本研究により、公開されている農薬の90日間反復投与毒性試験結果を利用することで、ラットにおける肝細胞肥大と他の毒性所見との関連性を解析可能なデータベースを構築し、肝細胞肥大の毒性学的特徴の一端を明らかにできた。