著者
長澤 孝真 田中 裕有 関本 征史 根本 清光 出川 雅邦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-162, 2012 (Released:2012-11-24)

【目的】CYP3A4遺伝子の発現はプレグナン X受容体(PXR)やビタミン D受容体(VDR)により、それぞれ正の制御を受けることが報告されている。しかし、CYP3A4遺伝子発現におけるこれら受容体の相互作用については未だ明確にされていない。最近、我々はPXRやVDRの活性化を介してLuciferaseを発現するHepG2由来レポーター細胞株(HPL-A3)の樹立に成功した。そこで、本研究では樹立したHPL-A3株を用い、PXR活性化剤とVDR活性化剤のそれぞれ単独、あるいは複合処理によるCYP3A4遺伝子発現への影響を検討した。【方法】PXR活性化剤としてRifampicin(RIF)を、また、VDR活性化剤として1,25-dimehydroxyvitamin D3(VD3)を用いた。HPL-A3細胞に対し、RIF(1 µM)とVD3(0.1 µM)をそれぞれ単独あるいは複合処理し、PXR/VDR活性化(CYP3A4プロモーター活性化能)への影響をLuciferase assayおよびReal time RT-PCR法を用いて測定した。【結果】RIF単独処理では72時間まで経時的に、またVD3の単独処理では24時間をピークとして、LuciferaseおよびCYP3A4遺伝子の有意な発現誘導が観察された。また、これら発現量はRIFとVD3を24時間複合処理することで相加的に増加した。【考察】以上の結果より、PXRリガンドとVDRリガンドの複合暴露により、CYP3A4プロモーター活性化が相加的に増強されることが明らかとなった。CYP3A4酵素は異物(医薬品を含む)の代謝に関わる主要酵素であり、その発現変動は異物の薬効・毒性発現に大きな影響をもたらす。したがって、適切な薬物治療や人の健康維持(異物の安全性・毒性評価)を考える上で、環境化学物質(医薬品を含む)のPXR活性化能やVDR活性化能について検索・評価し、さらに、その相互作用についても考慮することが重要であると考えられた。
著者
増田 茜 増田 雅美 関本 征史 根本 清光 吉成 浩一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-16, 2015 (Released:2015-08-03)

化学物質の曝露により肝細胞及び肝臓はしばしば肥大するが、その機序や毒性学的意義は不明である。肝細胞肥大の多くは薬物代謝酵素誘導を伴うことから、肝細胞肥大は一般に生体の適応反応と考えられている。しかし、我が国における農薬の安全性評価では、肝細胞肥大は毒性とされ、NOAEL及びADIの根拠となることもある。そのため、肝細胞肥大の毒性学的意義の解明が必要とされている。そこで本研究では、毒性試験公開データを利用した統計学的データ解析により、肝細胞肥大の毒性学的特徴付けを試みた。食品安全委員会で公開されている全266の農薬評価書をダウンロードした。このうちラット90日間反復投毒性試験結果が報告されていた196農薬の評価書から、試験で認められた全1032毒性所見を抽出した。各所見を、大項目(臓器・組織、血液学、血液生化学、尿・便、外観・行動、腫瘍・がん等)、中項目(所見・徴候、検査項目等)、小項目(部位・細胞、毒性学的特徴等)で分類し、それぞれの所見に7桁のコード番号を割り当てた。また、各毒性所見が認められたか否かを1(陽性)または0(陰性)としてデータシートを作成した。使用した196農薬のうち、雄では中心性肝細胞肥大は54農薬(28%)、びまん性肝細胞肥大は35農薬(18%)で認められた。雌でもほぼ同様の比率であった。さらに、カイ二乗検定(統計解析ソフトJMPを使用)の結果、肝細胞肥大の発現と複数の毒性徴候(肝重量増加、肝腫大、血中総タンパク増加、血中コレステロール増加、甲状腺肥大等)との間に有意な関連性が認められた。興味深いことに、中心性とびまん性の肝細胞肥大では、有意に関連する毒性所見が異なった。また一部では性差も認められた。なお、酵素誘導との関連が推察される甲状腺の所見は、中心性肝細胞肥大のみと関連した。以上本研究により、公開されている農薬の90日間反復投与毒性試験結果を利用することで、ラットにおける肝細胞肥大と他の毒性所見との関連性を解析可能なデータベースを構築し、肝細胞肥大の毒性学的特徴の一端を明らかにできた。
著者
根本 清光
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

中枢神経系で重要な役割を果たすNMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)の2Cサブユニットの遺伝子(Grin2c)が、肝細胞肥大誘発作用、肝細胞傷害性あるいは肝細胞増殖性肝肥大誘発作用を示す化学物質の投与ラット肝臓で顕著に発現亢進することを見いだし、これら化学物質の作用にNMDARが何らかの役割を果たすものと推定された。しかし、肝細胞株でこのような化学物質によるGrin2c遺伝子の発現亢進を見いだすことができず、他の細胞種から産生される因子など間接的な要因で発現亢進が引き起こる可能性が考えられた。