- 著者
-
大串 誠寿
- 出版者
- 一般社団法人 芸術工学会
- 雑誌
- 芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
- 巻号頁・発行日
- vol.62, pp.71-78, 2013 (Released:2017-11-30)
本論では、明治初期・和装新聞の印刷面から、木版と鋳造活字版を識別する判定法を、整版、木活字版、鋳造活字版で印刷された3種類のサンプルに対して実施し、その有効性を検証する。
筆者は芸術工学会誌・第61号掲載論文「明治初期・和装新聞の版式判定」に於いて、同判別法について考察し、以下の手順を提示した。
(1)同一版面に出現する同一字種の複数の文字をサンプリングする。
(2)サンプルにPhotoshopで輪郭トレースを行い輪郭線画像を得る。
(3)輪郭線画像を重ね合わせて照合を行う。
(4)骨格・結構に差異が認められる場合は手作業により製作されたものと言えるので木版と判断される。
(5)骨格・結構に差異が認められない場合は手作業彫刻の偶発的な近似、又は鋳造による複製と考えられる。双方を明確に識別することは困難な為、この場合は判断を保留する。
(6)骨格・結構に差異が認められない場合が複数の組み合わせに於いて成立する時、偶発的近似と考えず、鋳造による複製と判断する。
サンプルは明治初期の新聞を集成した資料文献、北根豊・鈴木雄雅・監修1986-2000年『編年複製版・日本初期新聞全集』全64巻・補巻1,2・別巻(ぺりかん社)より採取した。同書は明治初期・主要新聞の各頁を写真撮影して掲載したもので、本論の検証に資する精度の画像を取得出来た。サンプル選定にあたっては、 先行研究により版式が明らかであること、同一字種の文字が適当な数含まれること、などが担保されるよう配慮した。その結果、整版は『太政官日誌』明治己巳第一號、木活字版は『官板バタヒヤ新聞』文久二年正月刊一、鋳造活字版は『長崎新聞』明治六年一月・第壱號を選出した。さらに、出現数が多いこと、字形がある程度の複雑さを備えていることを基準に各紙から4字種ずつ選出し、合計12字種をサンプルとした。これをイメージスキャナーCanon PIXUS-MP970を用いて一文字当たりを画素数300~400pixel四方の画像データとして取得した。続いてAdobe Photoshop CS3を用いて文字の輪郭線を抽出し、これを重ね合わせて照合することにより字形の異同を分析した。
整版文字27個と木活字版文字50個、鋳造活字版文字45個の合計122サンプルに対して実施した。その結果、3個(2.5%)について判定を保留したが、119個(97.5%)で先行研究に合致する判定結果を導き出した。