- 著者
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栗山 容子
大井 直子
- 出版者
- 一般社団法人 日本発達心理学会
- 雑誌
- 発達心理学研究 (ISSN:09159029)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, no.2, pp.158-169, 2012
価値をアイデンティティ発達の中核に位置づけて,日本の大学生の価値意識を面接によって明らかにし,意味付与の志向性から構造化を試みた。またその発達的変化を追跡面接によって検討した。面接の内容領域のうち,生きていく上で大切なことという価値意識に関する分析を中心に揺らぎの経験や両親の価値の認知,宗教的価値意識を補足分析として実施した。研究1では1年生42名と4年生24名のスクリプトから8つの価値パターンを抽出した。価値パターンの意味付与の方向性から,自己志向(理性,努力・達成,自己準拠の3価値パターン),社会志向(人間関係,博愛・貢献,社会規範の3価値パターン),現実志向(積極行動,安楽・充足の2価値パターン)の3つの志向モードに構造化した。普遍的な価値に対応する価値パターンの他に"人間関係"や"自己準拠"の青年期に固有の価値パターンが明らかになった。1年では社会志向の"人間関係"が他の価値パターンに比して有意に多く見られたが,4年では偏りが少なく,個々の価値意識が窺われた。また4年では価値意識の揺らぎが落着し,両親の価値観の認知に個別性がみられた。研究2では研究1の1年生で,卒業時の追跡面接が実施できた30名について価値意識の変化を検討した。その結果,変化の方向性は一様ではなかったが,自己志向と社会志向に関連して青年期に特有の変化過程が推測された。