著者
大原 久友 福永 和男 吉田 則人 古谷 政道 大原 洋一 伊藤 具英 松岡 保男 伊藤 辰雄
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.225-"249-4", 1967-12-31

著者らは公共草地における造成・維持・利用管理に関する一連の研究を行なっている。今回の報告は北海道河東郡上士幌町字清水谷の町有公共草地において実施したものであり,この清水谷公共草地では主として放牧育成牛による放牧育成を行なうものである。その調査研究の結果を要約するとつぎのごとくである。1.この公共草地は10年以前に森林であったが,その後自然草地(混牧林)として馬の育成に利用されていた。1961年から3ヵ年間にわたり集約草地として改良し,1964年からの3ヵ年間は蹄耕法による簡易草地として造成したものである。その立地条件を示すと全面積: 127ha集約草地造成: 30ha蹄耕法による簡易草地造成: 60ha自然草地: 37ha地況: 標高は400〜480m,乾性地85%,湿性地15%である。土壌: 十勝岳C統火山灰で被覆される火山灰土壌であり,表土のpHは5.9,燐酸吸収係数は1970である。植生: 造成前の植生は乾性地ではカシワ,ミヅナラなどの広葉樹,湿性地ではヤチハソノキの林相であり,前者はササ型(ミヤコザサ),エゾヤマハギの優占する長草型,後者はヒラギシスゲの優占する長草型であった。気象: 一般に低温であり,積算温度は2300℃内外である。時として多雨,無霜期間が短い年もある。したがって一時的には普通畑作物の限界地帯であり,草地農業地帯に属する。2。造成集約草地では常法,つまり障害物除去,耕起,整地,施肥,播種,覆土,鎮圧によって造成した。そのうち施肥と播種はもっとも重要であるが,その量は造成年次によって若干異なる。肥料として炭カル,熔燐,草地用肥料2号(6-11-11),草種としてチモシー,オーチャードグラス,メドウフェスク,アカクローバ,アルファルファ,ラジノクローバを2.2〜2.5kg/10a混播した。蹄耕法による造成も集約草地に準ずるが,集約草地造成の場合よりもやや混播草種数を多くし,播種量も増加した。混播量は3.5〜4.2kgである。造成草地の植生はいずれもよく保持され,とくにオーチャーグラス(マスハーデイ),チモシー(クライマックス),メドウフェスク,ラジノクローバおよびシロクローバ(ニュージランド)などが旺盛に繁茂し,雑草の侵入を防止している。10a当り産草量は3トン内外であるが牧養力はかなり高い。造成後7年次の草地でもかなり植生構成が良好である。造成経費は集約草地の3ヵ年平均がha当り90,628円,蹄耕法による造成草地のそれは38,088円であり,後者の造成費は極めて少ない。[table]3,利用管理集約草地30haを9牧区,簡易草地60haを7牧区,野草地37haを3牧区,つまり全面積127haを19牧区,1牧区平均6.6haに区分し,放牧期間を通じて植生に応じて輪換放牧を行なった。輪換回数は牧区,年次によって異なるが,おおむね2〜7回であり,5回の輪換がもっとも多い。余剩の生じを草については乾草として調製した年もある。1965,1966,1967年における利用状況を示すと左のごとくである。[table]4.放牧期間における育成中の発育入牧時と中間時および終牧時に体位の測定を行なったが,その結果を示すと上のごとくである。入牧時と終牧時における体重の回帰直線はつぎのごとぐである。1965年入牧時Y=14.644x十96.06r=0.939 1965年終牧時Y=15.569x+116.86r=0.946 1966年入牧時Y=13.232x+108.72r=0.971 1966年終牧時Y=16.513x十155.947r=0.965このようにこの公共草地においては放牧育成牛にかなりの効果が認められたが,その原因として考えられる点を指摘すると(1)植生の構成,とくに少ない侵入雑草とマメ科率の保持(2)かなり高い放牧密度(3)植生に応じた適当な輪換方法5.補助飼料給与が発育に及ぼす影響放牧育成牛の栄養を向上せしめるため各群10ヵ月,12ヵ月,14ヵ月齢のもの12頭を用い骨の組成と同じ第3燐酸カルシウムおよび育成牛用配合飼料を給与した結果は左のごとくであり,補助飼料給与の効果は認められる。したがって,育成牛の栄養不良なもの,植生の衰退したときなどはこのようなミネラル,育成牛用飼料を補給することがのぞましい[table]6.経営収支経営収支では1964年は赤字決算(14万円)であったが,1965年以降は黒字決算(1965年は8万円,1966年は52万円,1967年は67万円)となり年とともに次第に黒字額が増加している。収入の主な財源は放牧料と採草料であり,支出の大部分は管理人のための賃金と肥料代である。以上のようにこの清水谷公共草地はかなり造成年次から年数を経ているにかからず,植生の維持がよい状態にあり,集約草地と簡易草地を組み合わせてかなり高い牧養力を保持している。さらに育成牛の栄養も良好にして発育効果も大であり,加うるに経営収支も黒字に転じている。さらに労力の面からみてもこの公共草地は熟練した管理人1人で管理できる単位としてもっとも適正な規模のものであろう。したがってこの草地はもっとも安定した公共草地の1つにあげることができよう。
著者
大原 久友
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告 第1部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.372-384, 1968-05

馴鹿は北極圏周辺に飼養されている反芻動物であり,これらの地方では原住民,ラプランド人などによって飼われている。その用途は乳・肉・輸送用など広範である。この地帯における主な飼料は乾燥したツンドラ地帯に広く分布しているハナゴケである。そのほか,エイランタイ,バイダイキノリおよびミズゴケ類も採食される。著者は馴鹿の飼養について科学的な興味をもって若干の研究を行なったが,今回報告するのは主飼料であるハナゴケの消化率と,ハナゴケ以外の北海道産の飼料で人工飼養を行なったものについてである。すなわち昭和18年4頭の馴鹿を樺太から北海道の帯広畜産大学に輸入されたものについて実施したものである。その結果を要約するとつぎのごとくである。1.ハナゴケの飼料組成,消化率および可消化成分はつぎのごとくである。[table]このようにハナゴケは蛋白質,脂肪含量ともに少なく,粗繊維に富む飼料であるが,前者の消化率は低く,炭水化物の消化率は概して高い。性別,年齢別に若干の差異が認められる。澱粉価は7.65,可消化養分総量は20.36である。2.ハナゴケ飼養時における石灰・燐酸の出納についてみると,前者の出納は負であり,後者は正であって46.5%の吸収率を示している。これらは造骨,角質の成分であるから,馴鹿飼料としてはカルシウム剤の補給が必要である。3.ハナゴケの摂取状況は概して良好であったが,ハナゴケ飼料のみの給与では若干生体重が減少する傾向が認められた。4.馴鹿の常飼料であるハナゴケから人工飼料に切替えした飼養試験によると,飼料を切替えした第1回目の摂取には長時間を要し,かつ嗜好性も低かったが,2日目にいたってようやく人工切替え飼料に馴致し,3日目にいたって完全に摂取するようになった。このように飼料の切替えは馴鹿の生理的状態を良好にし,飼養管理に注意するときは急変しても大きな影響がないようである。5.豆類の多給は下痢および鼓脹症を起こす危険性も大きいので200g位を限度とする。切替えに供用した燕麦,ビートパルプ,豆類,ビート茎葉のほか,乾草とくに2番牧草,ヨモギの葉部を好食し,カシワ葉,カラマツの枝なども摘食した。以上のように馴鹿にはじゅうぶんな適正な運動と飼養法によって人工飼料による増体あるいは栄養の向上が可能であることを認めた。
著者
大原 久友 浦上 清 石井 格 瀧ケ平 武昭
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.32-43, 1969-09-30

著者らは,日本のいろいろな環境条件下において適応した搾乳器を選択し,その性能を明らかにするために機械搾乳に関する一連の研究を実施している。今回はスウェーデンアルファラバル会社において製作された旧型のP77と新型のHP87の搾乳に及ぼす影響について比較研究した結果について報告する。この研究は,冬季間においてバケット型とミルキングパーラーにて用いたパイプライン型の搾乳器について実施したものである。その結果を要約するとつぎのごとくである。1. P77とHP87型のものについて比較した結果は表のごとくである。以上のように,HP87で搾乳するときはP77に比してバケット型で乳量が14%,ミルキングパーラーのパイプライン型で10%,それぞれ増加した。特に,HP87を用いた時には後搾りの乳量がかなり低減した。[table] 2. HP87を用いた時には,搾乳に要した時間が極端に短縮された。このようにミルカーの種類と後搾りおよび搾乳のための所要時間とはきわめて関係が深い。ミルキングパーラーにおけるパイプライン型の場合もバケット型の場合と同様である。3. 1分間あたり搾乳に対する産乳量は時間が進むとともに変化するが,一般的にいうと搾乳を始めてから1〜2分後に最高となり,この間に3〜3.4kgの牛乳が流出される。4.比較的大型な酪農場におけるHP87,P77と国産搾乳器による搾乳の所要時間および残乳量を調査すると,HP87の性能はきわめて高く,機械搾乳に要する所要時間も短縮され残乳量もきわめて少なくなった。以上のごとく,新しい型式のHPミルカーはバケット型でもパイプライン型でも産乳量を多くし,機械搾乳に要する時間を短縮せしめ,著しく残乳量を少なくする上に効果があることが確認された。