著者
大原 洋一
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.431-445, 1979-11-20

アルファルファは世界に広く分布し,もっとも重要なマメ科牧草の1つである。この牧草は家畜飼養に必要な養分に富むものである。今回の報告は温度がアルファルファの生育,乾物収量に及ぼす影響に関する栽培学的面から実施した一連の研究計画の一部についてである。供試品種は北海道に適応する6種であるが,乾物収量の他に窒素成分及び6品種の1つであるライゾマ品種についてアミノ酸含量の分析を実施した。これらの研究結果を要約すると次のごとくである。1.供試品種はウィリアムスバーク,サラナック,バァナル,ナラガンセット,ライゾマ及びデュピイの6品種である。これらをファイトトロン内で15℃,20℃,25℃及び30℃の恒温として栽培したが初期生育,第1回再生,第2回再生とも25℃における生育がもっとも旺盛であり,乾物収量も高かった。これについで30℃,20℃,15℃の順に低減した。品種間ではサラナック,ウィリアムスバーク,デュピイの3品種が他の3品種に比し,より生産的であった。2.比較的低温に栽培したアルファルファは高温に栽培したものに比し窒素含量が高く,アミノ酸含量もこれに平行した。このように窒素含量,アミノ酸含量はアルファルファの生育に関連が深く,必須アミノ酸の含量は温度の上昇に伴って増加する傾向にある。今回,分析したアミノ酸は16種であるが,そのうちアスパラギン酸,グルタミン酸,ロイシン,リジン,アラニン,プロリン及びセリンは他のアミノ酸に比し高含量であった。メチオニン及びヒスチヂンが他のアミノ酸よりも少量であった。以上のごとく,今回の研究では温度がアルファルファの生育と密接な関係のあることを実証したが,この知見は多年アルファルファの栽培で問題になっていた栽培学上の若干の問題点を明らかにしたように思われる。したがってこの研究成果は日本の北方地域におけるアルファルファの栽培面積を増大せしめる可能性をもたらすものと期待される。
著者
大原 久友 福永 和男 吉田 則人 古谷 政道 大原 洋一 伊藤 具英 松岡 保男 伊藤 辰雄
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.225-"249-4", 1967-12-31

著者らは公共草地における造成・維持・利用管理に関する一連の研究を行なっている。今回の報告は北海道河東郡上士幌町字清水谷の町有公共草地において実施したものであり,この清水谷公共草地では主として放牧育成牛による放牧育成を行なうものである。その調査研究の結果を要約するとつぎのごとくである。1.この公共草地は10年以前に森林であったが,その後自然草地(混牧林)として馬の育成に利用されていた。1961年から3ヵ年間にわたり集約草地として改良し,1964年からの3ヵ年間は蹄耕法による簡易草地として造成したものである。その立地条件を示すと全面積: 127ha集約草地造成: 30ha蹄耕法による簡易草地造成: 60ha自然草地: 37ha地況: 標高は400〜480m,乾性地85%,湿性地15%である。土壌: 十勝岳C統火山灰で被覆される火山灰土壌であり,表土のpHは5.9,燐酸吸収係数は1970である。植生: 造成前の植生は乾性地ではカシワ,ミヅナラなどの広葉樹,湿性地ではヤチハソノキの林相であり,前者はササ型(ミヤコザサ),エゾヤマハギの優占する長草型,後者はヒラギシスゲの優占する長草型であった。気象: 一般に低温であり,積算温度は2300℃内外である。時として多雨,無霜期間が短い年もある。したがって一時的には普通畑作物の限界地帯であり,草地農業地帯に属する。2。造成集約草地では常法,つまり障害物除去,耕起,整地,施肥,播種,覆土,鎮圧によって造成した。そのうち施肥と播種はもっとも重要であるが,その量は造成年次によって若干異なる。肥料として炭カル,熔燐,草地用肥料2号(6-11-11),草種としてチモシー,オーチャードグラス,メドウフェスク,アカクローバ,アルファルファ,ラジノクローバを2.2〜2.5kg/10a混播した。蹄耕法による造成も集約草地に準ずるが,集約草地造成の場合よりもやや混播草種数を多くし,播種量も増加した。混播量は3.5〜4.2kgである。造成草地の植生はいずれもよく保持され,とくにオーチャーグラス(マスハーデイ),チモシー(クライマックス),メドウフェスク,ラジノクローバおよびシロクローバ(ニュージランド)などが旺盛に繁茂し,雑草の侵入を防止している。10a当り産草量は3トン内外であるが牧養力はかなり高い。造成後7年次の草地でもかなり植生構成が良好である。造成経費は集約草地の3ヵ年平均がha当り90,628円,蹄耕法による造成草地のそれは38,088円であり,後者の造成費は極めて少ない。[table]3,利用管理集約草地30haを9牧区,簡易草地60haを7牧区,野草地37haを3牧区,つまり全面積127haを19牧区,1牧区平均6.6haに区分し,放牧期間を通じて植生に応じて輪換放牧を行なった。輪換回数は牧区,年次によって異なるが,おおむね2〜7回であり,5回の輪換がもっとも多い。余剩の生じを草については乾草として調製した年もある。1965,1966,1967年における利用状況を示すと左のごとくである。[table]4.放牧期間における育成中の発育入牧時と中間時および終牧時に体位の測定を行なったが,その結果を示すと上のごとくである。入牧時と終牧時における体重の回帰直線はつぎのごとぐである。1965年入牧時Y=14.644x十96.06r=0.939 1965年終牧時Y=15.569x+116.86r=0.946 1966年入牧時Y=13.232x+108.72r=0.971 1966年終牧時Y=16.513x十155.947r=0.965このようにこの公共草地においては放牧育成牛にかなりの効果が認められたが,その原因として考えられる点を指摘すると(1)植生の構成,とくに少ない侵入雑草とマメ科率の保持(2)かなり高い放牧密度(3)植生に応じた適当な輪換方法5.補助飼料給与が発育に及ぼす影響放牧育成牛の栄養を向上せしめるため各群10ヵ月,12ヵ月,14ヵ月齢のもの12頭を用い骨の組成と同じ第3燐酸カルシウムおよび育成牛用配合飼料を給与した結果は左のごとくであり,補助飼料給与の効果は認められる。したがって,育成牛の栄養不良なもの,植生の衰退したときなどはこのようなミネラル,育成牛用飼料を補給することがのぞましい[table]6.経営収支経営収支では1964年は赤字決算(14万円)であったが,1965年以降は黒字決算(1965年は8万円,1966年は52万円,1967年は67万円)となり年とともに次第に黒字額が増加している。収入の主な財源は放牧料と採草料であり,支出の大部分は管理人のための賃金と肥料代である。以上のようにこの清水谷公共草地はかなり造成年次から年数を経ているにかからず,植生の維持がよい状態にあり,集約草地と簡易草地を組み合わせてかなり高い牧養力を保持している。さらに育成牛の栄養も良好にして発育効果も大であり,加うるに経営収支も黒字に転じている。さらに労力の面からみてもこの公共草地は熟練した管理人1人で管理できる単位としてもっとも適正な規模のものであろう。したがってこの草地はもっとも安定した公共草地の1つにあげることができよう。
著者
大原 洋一
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.79-88, 1980-11-29

この試験は,標高が高く,気温が低く,しかも土壌があまり肥沃でないような環境条件,つまり気象的にも地形的にもアルファルファの生育に適さない自然草地でアルファルファ導入の可能性を明らかにするために実施したものである。試験は1962年から1965年の4年間にわたって実施し,供試品種はナラガンセット,バーナル,デュピイ,イタリー,グリム及びライゾマの6品種である。これらの品種は海抜標高の424m,525m,717mの3カ所に3反覆の試験地を設定して栽培した。その結果を要約するとつぎのごとくである。1.一般に標高が高くなるほど気温が低くなる。生育初年目のアルファルファの生育は低標高の試験地の気温が高かったため高標高の試験地におけるよりも良好であった。このことは播種当初の初年目の生育は気温に対する感応が大きいことを示すものである。しかし,2年目以降の乾物収量では中位標高の試験地のものが他の試験地におけるよりも高いのは肥沃度が他の2カ所よりも高いからである。つまり,アルファルファの乾物収量に地力が大いに影響している。3年目以降になると,きびしい寒さのため冬枯れし,特に高い標高のところでは消滅してしまう。この試験結果から考えアルファルファの生育可能な標高の限界は600〜700m位であり,積算温度(5月1日から9月30日に至る1日の平均気温の合計)の下限は2,000〜2,200℃位に推定される。このようにアルファルファの乾物収量は気象及び土壌条件に左右されることが大きい。2.環境条件のアルファルファの生育に及ぼす感応は品種によって異なるが,供試した6品種の中ではナラガンセットとライゾマが生育期間に低温,濃霧の多い気象,日照時間の少ない環境の下でもっとも適していることが確認された。生育3年目では700m以上の高い標高に導入したアルファルファ品種の多くは冬枯れのため消滅するに至った。3.アルファルファの乾物収量と品種間,標高間,収穫年次間にそれぞれ1%の水準で有意差を示した。また積算温度間に正の相関関係がみられた。以上のごとく,この研究ではアルファルファの永続性を保持し,高い乾物収量をあげる標高の上限は700mであろうと推定された。しかし品種によっては永続性を保ち,冬損に耐える生理的特性をもっているものがある。したがって,このような冷涼な気象,凍結した土壌に耐えるようなアルファルファの育種を行うことも必要であろう。同時に適当な栽培管理を行うことも,このようなきびしい環境条件の下でアルファルファを導入する可能性が実現されるであろう。