著者
岡野 雄一 寺住 恵子 堀 耕太 加藤 陽一 大塚 尚実 山家 純一 桑原 謙 奥本 克己 井 清司
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.444-449, 2016-10-20 (Released:2016-10-20)
参考文献数
7

外傷診療において出血は最大の致命因子であり, 特に四肢からの出血はpreventable deathの原因とされる. 熊本赤十字病院 (当院) では, 戦術的戦傷治療 (Tactical Combat Casualty Care ; TC3) の概念から, 2014年度よりドクターヘリに止血用タニケット (Combat Application Tourniquet®, 以下CAT®) を搭載し, 圧迫止血困難な四肢外傷例に対しCAT®を使用している. 今回CAT®使用例を調査し, その有効性について検討した. CAT®使用例は10例で, 全例CAT®使用にて止血でき, その後の再出血や合併症なく救命センターに搬送され, 全例転帰良好であった. 現場と救命センターでのRevised Trauma Score (以下, RTS) を比較した結果, 有意にRTSの改善がみられた (7.0±0.3 vs 7.6±0.2 ; p=0.021). CAT®は戦傷外傷用の止血帯であり, 小型で携行でき, 装着も簡便であるのが特徴である. 本研究にてRTSが改善したのは, CAT®の止血効果が高いことが要因の一つと考えられた. 今後はCAT®の周知と習熟が課題と考える. CAT®は止血効果が高く, 病院前救急診療に有用な器具である.
著者
大塚 尚実 其田 一 山崎 裕 北 飛鳥 宇留野 修一
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.7, pp.424-427, 2008-07-15
参考文献数
7

「氷上の格闘技」と呼ばれるアイスホッケーの試合中に,パックが頸部に衝突し,心肺停止で搬送された症例を経験したので報告する。症例は18歳の男性。アイスホッケーの試合中,相手のシュートで放たれた硬質ゴム製パック(重量約160g)が左耳後部に当たり,意識消失した。直後は自発呼吸があったがまもなく消失し,救急車内収容後に心静止となった。当院に搬入された際は心肺停止状態であり,瞳孔は散大し対光反射は消失していた。CPRを継続し,エピネフリン 1 mg投与後,自己心拍が再開した。左乳様突起尾側部に打撲痕が認められた。CT及びMRIを撮影したところ,くも膜下出血及び脳幹周囲血腫を認めた。自発呼吸,意識は回復しなかった。集中治療室に入室し,脳保護目的で低体温療法を行ったが,第 5 病日のCTでは低酸素脳症の所見であり,脳波・聴性脳幹反応ともに平坦であった。遠征中の事故であったため第 7 病日に地元病院に転院搬送となったが,搬送 7 日後に肺炎による呼吸不全を主とする多臓器不全により死亡した。アイスホッケーでは身体接触による外傷のほか,スケート,スティックやパックなどによる外傷も多数報告されている。そのため若年者ではより厳重に防具で身体保護を行っているが,シュートは成人で120-150 km/hにもなる。今回は防具の隙間に衝撃が加わり,脳幹周囲出血及びくも膜下出血を呈し,脳圧上昇によって脳幹が圧迫され,呼吸停止から心停止に至ったと推測される。同様の事故による複数の剖検例も報告されており,今後防具等の改善を検討する必要がある。