著者
國頭 恭 諸 人誌 藤田 一輝 美世 一守 長岡 一成 大塚 重人
出版者
土壌微生物研究会
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.41-54, 2019 (Released:2020-04-09)

2008年のリン価格の高騰以降,農地に蓄積した「legacy P」の有効化を試みる研究が多くされている。このlegacy Pの有効化は,リン資源枯渇の問題だけでなく,湖沼の富栄養化や植物病害を抑制する上でも重要である。土壌のリンの可給化に寄与する因子としては,アーバスキュラー菌根菌が最もよく研究されているが,ここでは効果が明瞭でない,あるいはあまり研究されていない,リン溶解菌,ホスファターゼ,微生物バイオマスリン,土壌の還元化に関する基礎的情報を提供した。いずれも,いまだ基礎的な知見すら不足しており,すぐに実用的に利用することは困難である。しかし,実際に土壌中で重要な役割を果たしており,農地に蓄積したリンの可給性を規定する仕組みを理解するうえでも,これらに関する理解の深化は不可欠である。またlegacy Pを有効利用するためにリン減肥をする際は,これまでよりもさらに精確なリン可給性の評価が必要となる。その場合,化学的評価法だけではなく,微生物バイオマスリンや土壌酵素の資源配分モデルといった生物指標の利用も有用である可能性があり,今後検証する必要がある。