著者
松井 秀樹 富澤 一仁 大守 伊織 西木 禎一 松下 正之
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

近年、脳内ホルモンの未知の生理作用が大きな脚光を浴びている。オキシトシンは出産、授乳時に子宮収縮や射乳を促すホルモンとして知られている。一方、同ホルモンについては脳内特に辺縁系にも多数のオキシトシン受容体が発現しており、オキシトシンの脳内における働きが注目されている。我々は海馬におけるオキシトシンの作用に注目して解析を行い、授乳中の母親マウスではオキシトシンにより記憶学習能力が向上することをすでに報告している。一方、近年オキシトシンによる不安情動調節作用が報告され注目されているが、そのメカニズムについては不明な点が多い。この基盤研究Bでは扁桃体機能に注目し、不安情動の調節機構を検索した。マウスを閉所に強制的に長時間閉じ込めるストレス負荷を行い行動解析すると、約一週間程度でストレス耐性を獲得する。この耐性獲得機構が扁桃体ニューロンにおいて、オキシトシンの分泌とRgs2と呼ばれるシグナル伝達系を介して制御されているとの仮説を証明した。本研究で得られた成果を今後さらに発展させ、in vivoで扁桃体へのRgs2遺伝子トランスフェクションやRNAiによる発現抑制などを行い、行動学的解析も用いて抗不安、抗ストレス作用の機構の解明を行う研究につなげてゆく予定である。今後この研究の発展により不安情動の新しい制御機構が可能となり、新しい治療法開発への糸口が開かれることと期待される。この意味でも本研究は大きな成果を上げることが出来た。
著者
大守 伊織 南 恭子 大野 繁 岡 牧郎
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
岡山大学大学院教育学研究科研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.174, pp.9-14, 2020-07-27

【目的】注意欠如・多動症(ADHD)の患児とその保護者が薬物治療をどのように評価し,治療に向き合っているのかを明らかにする。【方法】ADHDの診断を受け,メチルフェニデート徐放剤およびアトモキセチンを処方された小1から高3までの患児94 人と保護者106人に質問紙調査と半構造化面接を行った。【結果】90%以上で服薬は規則正しく行われており,薬物治療に対する肯定的な評価は,患児・保護者で約80 ~ 90%と高かった。一方で,全面的に賛成しているわけではなく,約80%の保護者が否定的な意見も持っていた.否定的評価をする要因は,保護者は副作用を含めた長期的な影響への不安,患児は服薬の煩わしさや胃腸症状が多かった。定期的な薬物治療を続けているにも関わらず,効果と不安等を天秤にかけて治療を継続することへの積極的な支持は,患児・保護者で約50 ~ 60%であった。【結論】小児では,低年齢のため客観的に自身の状況を判断し,見通しをもって治療に参加することが難しい場合がある。患児へは胃腸症状への対処を,保護者へは治療の見通しや副作用について丁寧な説明を繰り返すことによって,薬物治療への否定的評価が軽減され,服薬アドヒアランスが向上する可能性がある。