著者
松井 秀樹 富澤 一仁 大守 伊織 西木 禎一 松下 正之
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

近年、脳内ホルモンの未知の生理作用が大きな脚光を浴びている。オキシトシンは出産、授乳時に子宮収縮や射乳を促すホルモンとして知られている。一方、同ホルモンについては脳内特に辺縁系にも多数のオキシトシン受容体が発現しており、オキシトシンの脳内における働きが注目されている。我々は海馬におけるオキシトシンの作用に注目して解析を行い、授乳中の母親マウスではオキシトシンにより記憶学習能力が向上することをすでに報告している。一方、近年オキシトシンによる不安情動調節作用が報告され注目されているが、そのメカニズムについては不明な点が多い。この基盤研究Bでは扁桃体機能に注目し、不安情動の調節機構を検索した。マウスを閉所に強制的に長時間閉じ込めるストレス負荷を行い行動解析すると、約一週間程度でストレス耐性を獲得する。この耐性獲得機構が扁桃体ニューロンにおいて、オキシトシンの分泌とRgs2と呼ばれるシグナル伝達系を介して制御されているとの仮説を証明した。本研究で得られた成果を今後さらに発展させ、in vivoで扁桃体へのRgs2遺伝子トランスフェクションやRNAiによる発現抑制などを行い、行動学的解析も用いて抗不安、抗ストレス作用の機構の解明を行う研究につなげてゆく予定である。今後この研究の発展により不安情動の新しい制御機構が可能となり、新しい治療法開発への糸口が開かれることと期待される。この意味でも本研究は大きな成果を上げることが出来た。
著者
藤岡 周助 岡 香織 河村 佳見 菰原 義弘 中條 岳志 山村 祐紀 大岩 祐基 須藤 洋一 小巻 翔平 大豆生田 夏子 櫻井 智子 清水 厚志 坊農 秀雅 富澤 一仁 山本 拓也 山田 泰広 押海 裕之 三浦 恭子
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【背景と目的】ハダカデバネズミ (Naked mole rat、 NMR) は、発がん率が非常に低い、最長寿の齧歯類である。これまでに長期の観察研究から自然発生腫瘍をほとんど形成しないことが報告されている一方、人為的な発がん誘導による腫瘍形成に抵抗性を持つかは明らかになっていない。これまでにNMRの細胞自律的な発がん耐性を示唆する機構が複数提唱されてきた。しかし、最近それとは矛盾した結果も報告されるなど、本当にNMRが強い細胞自律的な発がん耐性を持つのかは議論の的となっている。さらに腫瘍形成は、生体内で生じる炎症などの複雑な細胞間相互作用によって制御されるにも関わらず、これまでNMRの生体内におけるがん耐性機構については全く解析が行われていない。そこで、新規のNMRのがん耐性機構を明らかにするため、個体に発がん促進的な刺激を加えることで、生体内の微小環境の動態を含めたNMR特異的ながん抑制性の応答を同定し、その機構を解明することとした。【結果・考察】NMRが実験的な発がん誘導に抵抗性を持つかを明らかにするため、個体に対して発がん剤を投与した結果、NMRは132週の観察の間に1個体も腫瘍形成を認めておらず、NMRが特に並外れた発がん耐性を持つことを実験的に証明することができた。NMRの発がん耐性機構を解明するために、発がん促進的な炎症の指標の一つである免疫細胞の浸潤を評価した結果、マウスでは発がん促進的な刺激により強い免疫細胞の浸潤が引き起こされたが、NMRでは免疫細胞が有意に増加するものの絶対数の変化は微小であった。炎症経路に関与する遺伝子発現変化に着目し網羅的な遺伝子解析を行なった結果、NMRがNecroptosis経路に必須な遺伝子であるRIPK3とMLKLの機能喪失型変異により、Necroptosis誘導能を欠損していることを明らかにした。【結論】本研究では、NMRが化学発がん物質を用いた2種類の実験的な発がん誘導に並外れた耐性を持つこと、その耐性メカニズムの一端としてがん促進的な炎症応答の減弱が寄与すること、またその一因としてNecroptosis経路のマスターレギュレーターであるRIPK3とMLKLの機能喪失型変異によるNecrotpsosis誘導能の喪失を明らかにした。