著者
柏木 孝幸 廣津 直樹 円 由香 大川 泰一郎 石丸 健
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-9, 2007 (Released:2007-02-28)
参考文献数
70
被引用文献数
11 16

イネにおいて倒伏は収量や品質を低下させ,生産者の作業効率を低下させる栽培上最も重要な障害である.倒伏は倒れ方から湾曲型,挫折型,転び型の3つに分類され,その中で湾曲型倒伏がコシヒカリ等の栽培で最も多く生じる.湾曲型倒伏は穂を含む植物体上位部の重さや風雨等の外部の力により稈が湾曲することにより発生する.「短稈化」,「強稈化」及び「下位部の支持力強化」が湾曲型倒伏に対する抵抗性のターゲットである.これまでの倒伏抵抗性の育種では主に短稈化がターゲットとされてきた.一方で短稈化のみで倒伏抵抗性を向上させていくにはいくつか問題がある.収量性の観点から考えると,草丈を下げる短稈化には限界が生じる.さらに抵抗性を向上させるには短稈化以外に強稈化及び下位部の支持力強化をターゲットとして育種を進めて行くことが必要である.本総説では,近年の分子・遺伝生理学的な研究の成果を中心に湾曲型倒伏に対する抵抗性に関する研究成果をまとめ,倒伏抵抗性向上に向けた研究の方向性を論じる.
著者
大川 泰一郎 石原 邦
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.419-425, 1992-09-05 (Released:2008-02-14)
被引用文献数
69 100

国内外22品種の水稲を用いて, 圃場条件下における耐倒伏性の品種間差異を検討した. わが国の長稈品種は倒伏しやすく, 国外の品種に比べていずれも稈基部の挫折強度を表す葉鞘付挫折時モーメントが著しく小さかった. 収穫期まで倒伏しなかった長稈品種および短稈品種は, 登熟期間を通じて倒伏指数の増加程度が小さかった. このことには, 地上部モーメントは大きいのに葉鞘付挫折時モーメントが高く維持されていることが関係しており, 葉鞘付挫折時モーメントは耐倒伏性と密接に関与する性質で, 品種によって大きく異なることがわかった. 葉鞘付挫折時モーメントが異なる要因を検討した結果, 葉鞘付挫折時モーメントの小さいわが国の品種はいずれも葉鞘補強度が小さく, 稈の挫折時モーメントも小さかった. 一方, 葉鞘付挫折時モーメントの大きい台中189号, 台農67号のような長稈品種は, 葉鞘補強度が大きく, 断面係数および曲げ応力がともに大きいことによって稈の挫折時モーメントが大きかった. また, 葉鞘付挫折時モーメントの大きい短稈品種には葉鞘の老化が遅く葉鞘補強度が49%と高いアケノホシ, 稈の断面係数が著しく大きいことによって稈の挫折時モーメントが大きい密陽23号のような品種があった. 本研究の結果, 葉鞘補強度, 断面係数および曲げ応力を大きくし稈の挫折時モーメントを大きくすることによって, 長稈穂重型品種に強稈性を付与することが可能であることがわかった.
著者
柏木 孝幸 廣津 直樹 円 由香 大川 泰一郎 石丸 健
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-9, 2007-01-05
参考文献数
70
被引用文献数
3 16

イネにおいて倒伏は収量や品質を低下させ,生産者の作業効率を低下させる栽培上最も重要な障害である.倒伏は倒れ方から湾曲型,挫折型,転び型の3つに分類され,その中で湾曲型倒伏がコシヒカリ等の栽培で最も多く生じる.湾曲型倒伏は穂を含む植物体上位部の重さや風雨等の外部の力により稈が湾曲することにより発生する.「短稈化」,「強稈化」及び「下位部の支持力強化」が湾曲型倒伏に対する抵抗性のターゲットである.これまでの倒伏抵抗性の育種では主に短稈化がターゲットとされてきた.一方で短稈化のみで倒伏抵抗性を向上させていくにはいくつか問題がある.収量性の観点から考えると,草丈を下げる短稈化には限界が生じる.さらに抵抗性を向上させるには短稈化以外に強稈化及び下位部の支持力強化をターゲットとして育種を進めて行くことが必要である.本総説では,近年の分子・遺伝生理学的な研究の成果を中心に湾曲型倒伏に対する抵抗性に関する研究成果をまとめ,倒伏抵抗性向上に向けた研究の方向性を論じる.
著者
徐 銀発 大川 泰一郎 石原 邦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.42-50, 1997-03-05
被引用文献数
9

最近育成された多収性品種タカナリと日本晴を用いて, 1991年から1994年の4年間にわたって収量及び乾物生産量を比較し, タカナリの多収要因を収量構成要素, 生長解析及び受光態勢を通じて検討した. 10 a 当たり収量は, 日照時間が少なく天候不良であった 91 年と 93 年では, タカナリは528〜642 kg で, 日本晴に比べて約 100 kg 高く, 日照時間が多く天候のよい 92 年と 94 年では, タカナリは 817〜888 kg で, 日本晴に比べて約 230 kg 高かった. 収量構成要素についてみると, タカナリは日本晴に比べてm^2当たり穂数は少ないが, 一穂穎花数が多いことによってm^2当たり穎花数が多く, 特に2次枝梗着生穎花数が著しく多いにもかかわらず登熟歩合が高かった. この要因はタカナリの乾物生産量と収穫指数ともに日本晴より著しく大きいことにあった. 乾物生産についてみると, 天候のよくない 91 年では出穂期以降, タカナリの個体群生長速度 (CGR) は日本晴に比べてもっぱら純同化率 (NAR) が大きいことによって大きく, 天候のよい 94 年では最高分げつ期以降, タカナリの CGR は NAR と平均葉面積指数 (LAI) がともに大きいことによって大きかった. タカナリの NAR が高い要因は, 幼穂形成期以降, 吸光係数, 個体群内の葉の配列, 穂の位置からみた受光態勢が日本晴より良好であることにあった. またタカナリの収穫指数が高いことには出穂後の穂重増加量と茎葉に蓄積された同化産物の穂への転流量を表す茎葉重減少量の大きいことが関係していた.