著者
土屋 周二 大木 繁男 杉山 貢 西山 潔 福島 恒男
出版者
横浜市立大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

1.目的.直腸癌の手術後には排尿, 性機能障害が高率に発生するが癌の治療のためには不可避なものとされていた. 本研究は癌に対する治療効果を十分に得ながら手術に伴う機能障害を最小限にするため骨盤内自律神経を温存する手術術式を開発しその適応を明らかにすることを目的とする. 2.排尿及び男性性機能を支配する神経は下腹神経, 骨盤内臓神経と陰部神経である. われわれは下腹神経, 骨盤内臓神経, 骨盤神経叢及びこれからの分枝を直視下に確認して温存し直腸を切除する方法を工夫して開発した.1.直腸癌に対する自律神経温存手術の排尿機能検査. 自律神経温存手術を受けた直腸癌69例に尿力学的な検査を行った. その結果, 自律神経をすべて温存すると排尿障害はなかった. (0/29). また片側の第4前仙骨孔から出る骨盤内臓神経が温存されれば83.3%(5/6)に排尿機能が維持された.2.直腸癌に対する自律神経温存手術後の性機能. 65歳以下で術前に性機能障害のない53例に術後の性機能を調査した. 下腹神経, 骨盤内臓神経, 骨盤神経叢およびその分枝をすべて温存した症例では勃起障害11%, 射精障害21%であり拡大郭清例(n=29)の66%, 93%の障害と比較して明かに性機能の温存ができた.3.雑種成犬を用いた骨盤内自律神経温存及び損傷の程度と排尿機能との関係. 17頭の雄成犬を用いた. 神経非損傷時には尿管からCO_2を注入すると排尿反射がみられ, 完全排尿となった. 片側骨盤内臓神経切断時には不完全収縮ながら排尿反射がみられた. 両側切断時には排尿反射は認められなかった.4.直腸癌に対する自律神経温存手術症例の手術適応. 下腹神経, 骨盤内臓神経をすべて温存した104例の5年累積局所再発例は20.8%, 累積5年生存率は72.7%であり, 拡大郭清例より良好であった. 背景因子から分類して検討すると癌の占居部位, 深達度にかかわらずリンパ節転移のない症例には自律神経温存手術の適応としてよいと考えられた.