著者
大村 尚
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.134-142, 2006-08-20 (Released:2007-10-05)
参考文献数
88

チョウ成虫の多くは花蜜を食物としており, 花色は訪花 (採餌) 行動の解発因子として重要である。同様に花香も訪花行動に作用するが, 解発因子は物質レベルで明らかにされていなかった。吸蜜植物の花香成分に対する応答を調べたところ, モンシロチョウやアカタテハは特定の芳香族化合物に高い選好性を示し, 口吻伸展反射や賦香造花への定位行動が観察された。これらの花香成分は様々な植物に含まれており, チョウの訪花行動を刺激する普遍的な嗅覚情報物質と考えられる。一方, 花香成分には訪花行動を抑制するものもあり, キンモクセイに含まれるγ―デカラクトンをモンシロチョウの忌避物質として同定した。滲出樹液や腐敗果実を食物とするルリタテハやアカタテハは, エタノールや酢酸など発酵産物の臭いを頼りに採餌行動を行った。花蜜しか利用しないタテハチョウは発酵産物の臭いに対する選好性が低く, チョウは食性によって異なる嗅覚情報物質を利用することがわかった。
著者
大村 尚 藤井 毅 石川 幸男
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

モンシロチョウの嗅覚を利用した寄主探索や交尾後の行動・嗅受容の変化について調べた。交尾雌は処女雄より匂いに対する反応性が高く、植物模型にキャベツ葉の匂いを賦香すると着陸頻度が増加した。雌の触角嗅覚感受性は交尾前後でほとんど変化しなかったため、交尾雌での行動の鋭敏化は、嗅受容に関する中枢神経系での変化に起因すると推定された。寄主探索をおこなう雌は幼虫糞の匂いを弱く忌避する傾向があり、交尾雌よりも処女雌において忌避反応は顕著であったが、活性物質の特定には至らなかった。雌成虫の遺伝子発現を調べ、触角での発現量は極めて少ないこと、胸部・卵では十数種の遺伝子が交尾後に過剰発現することを明らかにした。