著者
大河原 恭祐 飯島 悠紀子 吉村 瞳 大内 幸 角谷 竜一
出版者
日本生態学会暫定事務局
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.123-132, 2017 (Released:2017-12-06)

社会性昆虫であるアリには分巣と呼ばれるコロニー創設法があり、それに基づき複数の女王と複数の巣からなる多女王多巣性のコロニーが形成される。一部の多巣性の種では、コロニーが拡大してもメンバー間の遺伝的均一性が維持され、巣間では敵対行動が起きない。それによって種内競争を緩和し、コロニーを拡大できるとされている。これらの事は遺伝的に均一性の高い集団の形成はアリでも資源の占有や種間競争に有利であることを示唆している。本研究では多女王多巣性で、クローン繁殖によって繁殖虫を生産するウメマツアリVollenhovia emeryiについてコロニー形態や遺伝構造を調べ、その繁殖様式と多女王多巣性の発達との関連を調べた。さらにこうした繁殖機構をもつウメマツアリがアリ群集内の種間競争で有利に働き、優占的に成育できているかを、他種とのコロニー分布を比較することによって推定した。金沢市下安原町海岸林でのコドラートセンサスによる営巣頻度調査と巣間のワーカー対戦実験により、調査区内には8個の多巣性コロニーがあると推定された。さらにそのうちの主要な6個のコロニー(S1~S6)について、女王とワーカーを採集し、その遺伝子型をマイクロサテライト法で特定した。4つの遺伝子座について解析を行ったところ、女王には19個のクローン系統が確認され、1つのコロニーに2~5個の系統が含まれていた。また各コロニーのワーカーの遺伝的多様性は高かったが、コロニー間での遺伝的分化は低く、6個のコロニーの遺伝的構成は類似していた。このような遺伝的差異の少ないコロニー群は、越冬前に起きる巣の再融合によってコロニー間で女王やワーカーが混ざるために起きると考えられる。さらに類似した生態ニッチを持つ腐倒木営巣性のアリ群集でウメマツアリの優占性を調べたところ、営巣種14種の中でウメマツアリは高密度で営巣しており、比較的優占していた。しかし、ウメマツアリによる他種の排除や成育地の占有は見られず、ウメマツアリは微細な営巣場所を利用することによって他種との住みわけを行っていた。これらのことからウメマツアリのコロニー形態や遺伝構造には、他の多女王多巣性種とは異なる意義があると考えられる。
著者
大河原 恭祐
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

(1)エライオソーム比の個体群間変異とアリ群集との関連本年度は個体群間でエライオソーム比が異なる要因を調べるため、カタクリ種子を運搬するアリについて野外観察を行い、特に代表的な4調査地点(定山渓、生振、浦臼、音威子府)間で比較を行った。約100個のカタクリ種子を20個ずつ分割して林床に配置し、誘引されたアリの種類、個体数とその運搬行動を観察した。エライオソーム比の高い定山渓、音威子府個体群ではシワクシケアリとトビロケアリが主要散布アリで、運ばれた種子の全てはこの2種によるものであった。またエライオソーム比が低かった生振、浦臼個体群ではその2種に加え、アメイロアリ、アズマオオズアリが種子に集まった。しかしアメイロアリはエライオソームを食害するのみで種子を運搬しなかった。さらにこれら4種のコロニーを実験室内で飼育し、カタクリ種子を与えて、その処理行動を観察したところアズマオオズアリは種子を運んだ後、巣内でその60%近くを胚珠まで食害していた。これらの観察からカタクリのエライオソーム比は散布者となるアリの種類とその種子に対する行動によって大きく影響を受けていることが示唆された。(2)カタクリの種子散布成功率と動物群集構造の効果昨年度からの継続調査として既にアリや土壌節足動物相調査、種子運搬率などが調査してある金沢市近郊の犀川上流部の河内谷カタクリ個体群において、開花個体35個体について実生の定着成功率を調査した。その結果、1個体当たりの定着成功率は70-90%で、同様の調査を行った北海道定山渓個体群よりも高かった。これは昆虫類などの散布妨害者が少なかったことと土壌動物密度が希薄でアリにとってエライオソームの食料としての価値が高く、運搬頻度が上がったためであると考えられる。
著者
大河原 恭祐 飯島 悠紀子 吉村 瞳 大内 幸 角谷 竜一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.123-132, 2017 (Released:2017-08-03)
参考文献数
43
被引用文献数
2

社会性昆虫であるアリには分巣と呼ばれるコロニー創設法があり、それに基づき複数の女王と複数の巣からなる多女王多巣性のコロニーが形成される。一部の多巣性の種では、コロニーが拡大してもメンバー間の遺伝的均一性が維持され、巣間では敵対行動が起きない。それによって種内競争を緩和し、コロニーを拡大できるとされている。これらの事は遺伝的に均一性の高い集団の形成はアリでも資源の占有や種間競争に有利であることを示唆している。本研究では多女王多巣性で、クローン繁殖によって繁殖虫を生産するウメマツアリVollenhovia emeryi についてコロニー形態や遺伝構造を調べ、その繁殖様式と多女王多巣性の発達との関連を調べた。さらにこうした繁殖機構をもつウメマツアリがアリ群集内の種間競争で有利に働き、優占的に成育できているかを、他種とのコロニー分布を比較することによって推定した。金沢市下安原町海岸林でのコドラートセンサスによる営巣頻度調査と巣間のワーカー対戦実験により、調査区内には8 個の多巣性コロニーがあると推定された。さらにそのうちの主要な6 個のコロニー(S1 ~ S6)について、女王とワーカーを採集し、その遺伝子型をマイクロサテライト法で特定した。4 つの遺伝子座について解析を行ったとこ ろ、女王には19 個のクローン系統が確認され、1 つのコロニーに2 ~ 5 個の系統が含まれていた。また各コロニーのワーカーの遺伝的多様性は高かったが、コロニー間での遺伝的分化は低く、6 個のコロニーの遺伝的構成は類似していた。このような遺伝的差異の少ないコロニー群は、越冬前に起きる巣の再融合によってコロニー間で女王やワーカーが混ざるために起きると考えられる。さらに類似した生態ニッチを持つ腐倒木営巣性のアリ群集でウメマツアリの優占性を調べたところ、営巣種14 種の中でウメマツアリは高密度で営巣しており、比較的優占していた。しかし、ウメマツアリによる他種の排除や成育地の占有は見られず、ウメマツアリは微細な営巣場所を利用することによって他種との住みわけを行っていた。これらのことからウメマツアリのコロニー形態や遺伝構造には、他の多女王多巣性種とは異なる意義があると考えられる。