著者
大田 博樹
出版者
神奈川大学
雑誌
国際経営論集 (ISSN:09157611)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.79-89, 2008-10

本稿では、CSR報告書の保証の現状について調査するとともに、今後の課題について考察することを目的としている。まず、CSR報告書における保証を「自主審査」と「第三者意見」、「第三者審査」に分け、それぞれの特徴について整理した。そして、環境配慮促進法により特定事業者に指定されている独立行政法人の環境報告書の内容と保証の有無について考察した。また、一般企業のCSR報告書では、環境省と財団法人地球・人間環境フォーラムが主催する「環境コミュニケーション大賞」を受賞した報告書の保証の有無と内容について検討した。以上の調査から、CSR報告書における保証システムは報告書の内容の信頼性を高めるレベルには達していないことが明らかとなった。その背景には、まず、報告書の内容が広範に渡っている事が挙げられる。そのため、CSR報告書に対して保証を行う場合には、広範囲な知識が要求されることとなり、報告書全体の保証が難しくなっていると言える。第二に、保証を行うための社会的なシステムが整備されていないことも指摘できる。特に、実務では利害関係者と報告書作成組織、保証付与人との間で合意された基準が必要になるため、今後の議論が必要になると思われる。そして、第三に情報利用者側が求める「保証」と保証付与者の「保証」には少なからずギャップが存在している点が指摘できる。第四には、保証水準の曖昧さがある。CSR報告書の保証について明確な判断基準がないという問題がある。CSR報告書の信頼性を高めるためには、まず統一された報告書を作成することが重要で、その後、第三者意見と第三者審査の違いを理解し、それぞれの強みを生かした保証業務を行っていくことで、保証システムが有効に機能すると考えられる。