著者
大矢 慎吾 平井 剛夫 宮原 義雄
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.206-212, 1987
被引用文献数
6 24

スクミリンゴガイの北部九州における越冬生態を明らかにするため,本種の低温耐性,水田内および用水路における生存率の消長および米麦二毛作慣行栽培条件下での越冬状況を調査した。<br>1) 低温(恒温)条件下ですべての貝が死亡するのは,0°Cでは25日,-3°Cでは3日,-6°Cでは1日内外であり,温度の低下とともに生存期間は急激に短縮した。<br>2) 水田の落水とともに本種は,それぞれの殻高程度の深さで土中に潜入した。土中の貝は落水3か月後の12月下旬に80%以上が生存していた。<br>3) 用水路の雑草の下などにいる貝は,土の中に潜った貝よりも低温の影響を強く受け,死亡率が高まる傾向が認められた。<br>4) 水田内や用水路の土中の貝も,厳寒期の1月以降生存率は急激に低下し,4月中旬には約20%以下となった。<br>5) 殻高2∼3cmの貝の生存率が,殻高3cm以上の成貝よりもやや高い傾向が認められ,成貝の耐寒性が必ずしも強いとはいえなかった。<br>6) 米麦二毛作栽培体系下の水田内で越冬した貝は,水稲移植後水田地表面に一斉に現れることはなく,経時的に現われた。前年秋の生息貝数に対する移植12, 17日および28日後の水田内への出現貝数はそれぞれ2.3, 4.1および6.8%であった。これらの値は水稲の被害発現に関与する見かけの越冬率といえよう。<br>7) 本種は,かなりの寒冬年でも,北部九州の平坦部水田地帯の用水路や水田内で,越冬が可能である。
著者
大矢 慎吾 佐藤 昭夫
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.178-184, 1978-08-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
17

穿孔米を発生させるイネゾウムシは8月中∼下旬に羽化し,割れ籾を食害する。このような早期羽化要因を解明するため,蛹化に及ぼす落水の効果,土壌水分含量の差違と蛹化,幼虫の生存とイネの根の役割,素寒天培地を用いて幼虫の寄生実態の観察および現地水田における羽化時期の年次変動について調査し,最近のイネゾウムシ発生生態の変動要因について考察した。1. 湛水条件下で蛹化は認められず,落水によって蛹化した。長期の湛水条件によって老熟幼虫は経日的に死亡する傾向が認められた。2. 土壌水分含量が減少するほど蛹化は促進された。蛹化可能な限界土壌水分条件は地下水位10cm,pF0.8,水分含量80%前後であった。3. 湛水条件下では,イネの根が無いと幼虫は死亡する。透明な素寒天培地を用いた観察では,幼虫は根のまわりに集まり気門を根に接触させて生存しており,根を呼吸源として利用していた。4. 落水による気相の増加は,イネの根から土壌中の酸素利用へと幼虫の呼吸源の転換を可能にしているものと思われる。5. 上越地方では8月第1半旬には蛹化できる老熟幼虫となっていたが,1976年は8月上旬以降の多量の降雨によって蛹化が遅れ,幼虫越冬も認められた。6. 羽化時期は土壌の水分含量に影響を与える要因によって変動した。変動要因として落水時期をはじめとする水管理方法,8月上旬以降の降水量,暗渠設備,地下水位の高さ,土質などが考えられる。7. 北陸地方では1970年ごろより収穫作業機械の利用面積が急激に増加し,刈り取り時期に水田の地耐力をつよめることが稲作農家の大きな目標となった。そのため早期落水をはじめ水管理方法が変化してきた。暗渠設備や水管理方法の変化が早期に蛹化条件を整え,羽化時期を早め,穿孔米を発生させる大きな要因の一つであると思われる。