著者
天田 明男 千田 哲生 久保 勝義 大石 幸子 桐生 啓治
出版者
Japanese Society of Equine Science
雑誌
日本中央競馬会競走馬保健研究所報告 (ISSN:03685543)
巻号頁・発行日
vol.1974, no.11, pp.51-69, 1974-12-01 (Released:2011-02-23)
参考文献数
32

競走馬2例の心房細動に遭遇したので,臨床生理学的に観察した。各症例別の観察結果はつぎのとおりであった。 症例1:サラブレッド,牡,1962年生。 1965年12月のレースにおいて競走途中で突然にスピードが落ち1着馬から5.6秒遅れて入線した。心電図検査の結果,心房細動と診断された。その後,乗馬に転用されたが,1970年3.月に殺処分するまで心房細動が持続した。その間の観察所見はつぎのとおりであつた。 心電図所見:P波欠如し,f波が連続的に出現しその周波数は分あたり400~500であった。心拍間隔は極度に不整で,0.4~2.1秒の間で変動していた。QRS幅は0.12秒,Q-T間隔は0.40秒で正常範囲であった。運動中においても心拍間隔の不整がみられ,f波は消失しなかった。さらに運動中において異常に心拍数が増加した。心音図所見:各弁開口部において1音の振幅が大きく,かつその大きさは拍動毎に変化した。右心房内圧:37~65mmHgであり,a,z,c,x,v,yの各波は認められなかった。頸動脈頸動脈血圧:心拍間隔の不整に伴って血圧曲線も変動し,縮期圧は171~123(142±11.5)mmHg,弛緩期圧は148~99(121±12.1)mmHg,脈圧は40~9(21±4.6)mmHgであった。 症例2:繋駕速歩馬,牝,1963年生。 1967年9,月,調教中に馬場で転倒した。その後,乗馬に転用されたが心電図検査により心房細動と診断された。 心電図所見:基本的所見は症例1と同様であった。安静時心拍間隔は0.8~3.28秒(1.71±0.85秒)の範囲で変動し,QRS幅は0.09秒,Q-T間隔は0.50秒,f波の周波数は360~480/分であった。運動中の心電図検査においても症例1と同様所見がみられたが,心拍数は最高258/分まで増加し,さらに心室粗動の短かい発作が散発した。心音図所見:症例1と同様の所見であった。 本例は細動除去のためにアドレナリン作動β遮断薬(プロプラノロール)を投与したが不成功に終った。ついで1968年7月に硫酸キニジンを3目間に計55g投与したところ,除細動に成功した。その後,殺処分された1970年2月まで細動の再発はなく,洞調律が持続した。