著者
山下 主子 大角 幸雄 山下 光 山鳥 重
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.319-326, 2000 (Released:2006-04-25)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

動詞の想起障害と助詞の誤りが顕著な失語症の1例を報告した。症例は60歳の右利き女性で,頭部交通外傷により非流暢性失語症と右不全片麻痺を生じた。頭部MRIでは,左大脳半球の皮質領域に高信号域を示す散在性病変が認められ,右半球の前頭葉内側部にも一部及んでいた。日常会話や物品の使用法の説明課題において,名詞の想起が比較的保たれていたのに対して,動詞の想起障害と助詞の誤りが顕著だった。そこで,動作絵の説明課題を経時的に実施することによって本例の動詞と助詞の回復過程を検討し,動詞の想起障害と文法能力との関係を考察した。6ヵ月後,動詞の想起と助詞の使用はそれぞれ改善した。助詞の選択は動詞の正答,誤答にかかわらず同じように改善したことから両者はある程度独立した能力であると考えられた。本例の多発性病変からは解剖学的考察はできないが,動詞の想起と助詞の選択は異なった神経基盤の上に成り立っている可能性が示唆された。