- 著者
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森 悦朗
山鳥 重
- 出版者
- 医学書院
- 雑誌
- 精神医学 (ISSN:04881281)
- 巻号頁・発行日
- vol.27, no.6, pp.655-660, 1985-06-15
I.はじめに 物に触れるか,物を見ることで本人の意志とは無関係にそれを使用してしまうという奇妙な行動異常が1981年以降に相次いで報告された9,12,15,17,24)。我々は1981年第22回日本神経学会総会(熊本)においてそのような行動異常を示す例を報告し,「道具の強迫的使用」(compulsive mani—pulation of tools)と名付けた14,15)。患者は左前大脳動脈閉塞によって左前頭葉内側面と脳梁膝部に損傷を有し,右手の強い病的把握とともに,例えば患者の前にくしを置いた場合,患者の右手は意志に逆ってこれを取り上げ髪をといてしまう。道具の強迫的使用は右手のみに生じ,左手は患者の意志を表わして右手に持った道具をとりさろうとする。 また1981年Goldbergら9)はこれと全く同じであると思われる症例を報告し,右手に出現したalien hand sign (Bogen)4)であると解釈している。本邦では能登谷ら17),内山ら24)が各々1例ずつの報告を行っている。 これとは別に我々の報告した道具の強迫的使用と類似しているが,若干異なった行動異常も報告されている。Lapraneら12)は両側前頭葉内側面に損傷を持つ患者が,両手で強迫的に物を使用してしまう現象を記載しているし,Lehrmitte13)は前頭葉損傷を有する患者が,物を前に置かれると強迫的にではなく両手でそれを使用する現象を取り上げ,utilization behaviourと名付けている。 ここで我々は以前に報告した道具の強迫的使用を示す症例を再び示し,この現象に対する我々の考え方を述べ,類縁の現象についても整理を試みた。