著者
藤井 俊勝 平山 和美 深津 玲子 大竹 浩也 大塚 祐司 山鳥 重
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.83-87, 2005 (Released:2005-04-05)
参考文献数
22
被引用文献数
1

情動は個体の身体内部変化(自律神経活動,内臓活動など)と行動変化を含めた外部へ表出される運動の総体であり,感情は個体の心理的経験の一部である.ヒトの脳損傷後には,個々の道具的認知障害や行為障害を伴わずに,行動レベルでの劇的な変化がみられることがある.本稿では脳損傷後に特異な行動変化を呈した3症例を提示し,これらの症状を情動あるいは感情の障害として捉えた.最初の症例は両側視床・視床下部の脳梗塞後に言動の幼児化を呈した.次の症例は両側前頭葉眼窩部内側の損傷により人格変化を呈した.最後の症例は左被殻出血後に強迫性症状の改善を認めた.これら3症例の行動変化の機序として,情動に関連すると考えられる扁桃体-視床背内側核-前頭葉眼窩皮質-側頭極-扁桃体という基底外側回路,さらに視床下部,大脳基底核との神経回路の異常について考察した.
著者
山鳥 重
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.262-266, 1996-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

主として口頭言語の生成機構について, 鳥瞰的見取図を提示した.おおまかに考えて, 言語生成には環シルビウス溝言語領域, 環・環シルビウス溝言語領域, 右半球言語領域の3つの領域が重要である.環・環シルビウス溝言語領域の活動には補足運動野, 視床も加わる.環シルビウス溝言語領域は音声系列の生成, 環・環シルビウス溝言語領域は音声系列への言語的意味の充填, 右半球言語領域は意味ある音声系列への社会的意味の充填に働く.三者共同して生きた言語が生成する.
著者
山下 主子 大角 幸雄 山下 光 山鳥 重
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.319-326, 2000 (Released:2006-04-25)
参考文献数
14
被引用文献数
2 1

動詞の想起障害と助詞の誤りが顕著な失語症の1例を報告した。症例は60歳の右利き女性で,頭部交通外傷により非流暢性失語症と右不全片麻痺を生じた。頭部MRIでは,左大脳半球の皮質領域に高信号域を示す散在性病変が認められ,右半球の前頭葉内側部にも一部及んでいた。日常会話や物品の使用法の説明課題において,名詞の想起が比較的保たれていたのに対して,動詞の想起障害と助詞の誤りが顕著だった。そこで,動作絵の説明課題を経時的に実施することによって本例の動詞と助詞の回復過程を検討し,動詞の想起障害と文法能力との関係を考察した。6ヵ月後,動詞の想起と助詞の使用はそれぞれ改善した。助詞の選択は動詞の正答,誤答にかかわらず同じように改善したことから両者はある程度独立した能力であると考えられた。本例の多発性病変からは解剖学的考察はできないが,動詞の想起と助詞の選択は異なった神経基盤の上に成り立っている可能性が示唆された。
著者
山鳥 重
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.105-112, 2003-03-01 (Released:2011-12-15)
参考文献数
12

ヒトの記憶における海馬・海馬傍回系の機能についてこれまでのわれわれの研究の一端を紹介した.海馬・海馬傍回系の主要な機能は出来事記憶の記銘・把持であり, この領域の両側損傷は強い生活健忘を引き起こす. 健忘の程度と回復の程度は海馬・海馬傍回領域の破壊量に依存する.PETやfMRIに基づく機能的イメージング研究からみると, 言語材料記憶時の大脳賦活パターンは把持時間によって大きく変化する. すなわち短期的な把持では古典的な言語領域も記憶過程に関与するが, 把持時間が長くなると賦活領域はその周辺に移動する.幼少期の両側海馬・海馬傍回領域の損傷は言語や教科学習など, その後の意味記憶形成の障害となる可能性が高い.
著者
山鳥 重
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.540-546, 1994-08-10

I.本稿で扱う観念失行の定義 使用すべき道具の認知は保たれており,運動遂行能力にも異常がないのに,道具の操作に失敗する状態・使用のまずさ(運動拙劣症)によるのでなく,使用に際しての困惑,誤りによる障害(山鳥,1985)。 単一物品の操作でも複数物品を用いる複雑な操作でもみられるが,複数物品操作の方が出現しやすい。
著者
森 悦朗 山鳥 重
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.655-660, 1985-06-15

I.はじめに 物に触れるか,物を見ることで本人の意志とは無関係にそれを使用してしまうという奇妙な行動異常が1981年以降に相次いで報告された9,12,15,17,24)。我々は1981年第22回日本神経学会総会(熊本)においてそのような行動異常を示す例を報告し,「道具の強迫的使用」(compulsive mani—pulation of tools)と名付けた14,15)。患者は左前大脳動脈閉塞によって左前頭葉内側面と脳梁膝部に損傷を有し,右手の強い病的把握とともに,例えば患者の前にくしを置いた場合,患者の右手は意志に逆ってこれを取り上げ髪をといてしまう。道具の強迫的使用は右手のみに生じ,左手は患者の意志を表わして右手に持った道具をとりさろうとする。 また1981年Goldbergら9)はこれと全く同じであると思われる症例を報告し,右手に出現したalien hand sign (Bogen)4)であると解釈している。本邦では能登谷ら17),内山ら24)が各々1例ずつの報告を行っている。 これとは別に我々の報告した道具の強迫的使用と類似しているが,若干異なった行動異常も報告されている。Lapraneら12)は両側前頭葉内側面に損傷を持つ患者が,両手で強迫的に物を使用してしまう現象を記載しているし,Lehrmitte13)は前頭葉損傷を有する患者が,物を前に置かれると強迫的にではなく両手でそれを使用する現象を取り上げ,utilization behaviourと名付けている。 ここで我々は以前に報告した道具の強迫的使用を示す症例を再び示し,この現象に対する我々の考え方を述べ,類縁の現象についても整理を試みた。
著者
山鳥 重
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.237-240, 2002 (Released:2006-04-25)
参考文献数
11

ヒトの記憶はその使われ方の違いによって大きく 5つのタイプに区別できる。すなわち,作業記憶,出来事記憶,予定記憶,意味記憶,および手続き記憶である。このうち出来事記憶,意味記憶および,手続き記憶はその人の生活史および行動パターンの基盤を形成する。作業記憶は意識と密接に関係し,心理的現在を可能にする。予定記憶は現在を未来へつなぐことを可能にする。この 5種の記憶の神経心理学的特徴,および解剖学的基盤について著者らの考え方を述べた。
著者
目黒 祐子 藤井 俊勝 月浦 崇 山鳥 重 大竹 浩也 大塚 祐司 遠藤 佳子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.251-259, 2000 (Released:2006-04-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1

一般に言語性短期記憶は音韻情報の保持容量を指標としているが,言語情報は通常,意味と結びついているはずである。そこで単語レベルについては音韻の短期記憶 (音韻性ループ) に加えて意味の短期記憶 (意味性短期貯蔵庫) を仮定した。標準失語症検査の単語レベル課題の成績がほぼ同じ2症例に,単語系列を聴覚的および視覚的に提示し,口頭反応 (音韻情報保持) と線画指示 (意味情報保持) の成績を比較した。前頭葉損傷の症例1は刺激を聴覚提示した場合には指示スパンが低下しており,視覚提示した場合には聴覚提示に比べて明らかに成績が低下していた。一方,側頭-頭頂葉損傷の症例2では課題により成績に差を認めなかった。すなわち,症例1では複数情報が継時的に入力された場合,音韻情報と意味情報の保持に乖離を認め,さらには視覚情報から音韻情報への変換過程にも障害が見られた。しかし症例2では音韻性短期貯蔵庫の容量が削減していても意味情報として保持可能であることが明らかとなった。
著者
森 悦朗 山鳥 重 須山 徹 大洞 慶郎 大平 多賀子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.450-458, 1983
被引用文献数
1 2

Two cases with the mildest form of Broca's aphasia were studied neuropshychologically and neurologically. In case 1, a 58-year-old right-handed man had dysarthria, literal paraphasia, and literal paragraphia because of development of glioma. Comprehension was excellent. There were the right central and hypoglossal paresis and abolition of gag reflex. The site of lesion confirmed by computerized tomography and operation was in the lower part of the left precentral gyrus. A month after the resection of the tumor, only paragraphia improved. In case 2, a 58-year-old right-handed man developed the essentially same neurological and linguistic symptoms as those of case 1. Computerized tomography demonstrated a small hematoma probably restricted in the left inferior precentral gyrus. Three months later, the symptoms subsided except for slight dysarthria and dysgraphia. On the basis of literature and our two cases, it may be concluded that the left inferior precentral gyrus plays an important role not only in articulation but also in writing, and that this area is a more critical zone for Broca's aphasia than the foot of the left third frontal gyrus.
著者
藤井 俊勝 平山 和美 深津 玲子 大竹 浩也 大塚 祐司 山鳥 重
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.83-87, 2005-02-01
参考文献数
22

情動は個体の身体内部変化(自律神経活動,内臓活動など)と行動変化を含めた外部へ表出される運動の総体であり,感情は個体の心理的経験の一部である.ヒトの脳損傷後には,個々の道具的認知障害や行為障害を伴わずに,行動レベルでの劇的な変化がみられることがある.本稿では脳損傷後に特異な行動変化を呈した3症例を提示し,これらの症状を情動あるいは感情の障害として捉えた.最初の症例は両側視床・視床下部の脳梗塞後に言動の幼児化を呈した.次の症例は両側前頭葉眼窩部内側の損傷により人格変化を呈した.最後の症例は左被殻出血後に強迫性症状の改善を認めた.これら3症例の行動変化の機序として,情動に関連すると考えられる扁桃体-視床背内側核-前頭葉眼窩皮質-側頭極-扁桃体という基底外側回路,さらに視床下部,大脳基底核との神経回路の異常について考察した.<br>
著者
森 悦朗 山鳥 重 須山 徹 大洞 慶郎 大平 多賀子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.450-458, 1983 (Released:2006-08-11)
参考文献数
25
被引用文献数
3 2

Two cases with the mildest form of Broca's aphasia were studied neuropshychologically and neurologically. In case 1, a 58-year-old right-handed man had dysarthria, literal paraphasia, and literal paragraphia because of development of glioma. Comprehension was excellent. There were the right central and hypoglossal paresis and abolition of gag reflex. The site of lesion confirmed by computerized tomography and operation was in the lower part of the left precentral gyrus. A month after the resection of the tumor, only paragraphia improved. In case 2, a 58-year-old right-handed man developed the essentially same neurological and linguistic symptoms as those of case 1. Computerized tomography demonstrated a small hematoma probably restricted in the left inferior precentral gyrus. Three months later, the symptoms subsided except for slight dysarthria and dysgraphia. On the basis of literature and our two cases, it may be concluded that the left inferior precentral gyrus plays an important role not only in articulation but also in writing, and that this area is a more critical zone for Broca's aphasia than the foot of the left third frontal gyrus.