著者
大野 仁嗣
出版者
公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
雑誌
天理医学紀要 (ISSN:13441817)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.97-109, 2014-12-25 (Released:2014-12-25)
参考文献数
33
被引用文献数
1

原発性中枢神経リンパ腫(PCNSL)は,病変が中枢神経に発生・限局し,他の臓器には病変を認めないものと定義されるであろう.大半の症例はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の病理形態を示す.巣症状,精神神経症状,脳圧亢進症状,痙攣などで発症し,病変は脳室周囲に生じることが多い.MRI画像では,T1強調画像で等~低信号,T2強調画像で等~軽度高信号,造影によって強い増強効果を示す.PCNSLの初期治療は高用量メソトレキセート(HD-MTX)を含む化学療法である.化学療法に引き続いて40ないし45グレイの全脳照射を追加する.これらの化学・放射線治療による完全奏効率は30ないし87%,5年生存率は22ないし70%であるが,最も重篤な毒性は遅延性の神経毒性である.特に高齢者では認知機能が進行性に低下する.当院では直近の3年間に10例のPCNSL症例を診療した.HD-MTXを含む強力な化学療法,Ommayaリザーバーによる抗腫瘍剤の脳室内投与,自家造血幹細胞移植を併用した高用量化学療法,および全脳照射などの治療を行ったが,2年以上の長期生存者は1例に過ぎない.一方,悪性リンパ腫は,神経系のあらゆるレベルに浸潤・再発する.中枢神経再発のなかでは髄膜播種の頻度が最も高く,脳神経麻痺で発症することが多い.悪性リンパ腫の中枢神経再発にはPCNSLと類似の治療戦略を必要とするが,全身播種に対する治療も必要である.中枢神経再発後の生存期間中央値は2ないし5か月に過ぎないので,中枢神経再発リスクの高い症例には,初期治療に中枢神経再発予防を組み入れる必要がある.
著者
鴨田 吉正 中井 敦史 宇山 紘史 大野 仁嗣
出版者
Tenri Foundation, Tenri Institute of Medical Research
雑誌
天理医学紀要 (ISSN:13441817)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.34-39, 2012-12-25 (Released:2013-03-08)
参考文献数
13

症例: 19歳男性.労作時息切れ,全身倦怠感,発熱などを自覚し近医受診,血液検査で白血球増多が認められたため,急性白血病を疑われて紹介入院となった.表在性リンパ節腫脹なし,肝脾腫なし.検査結果: 白血球27,700/μl,白血病細胞89.5 %,ヘモグロビン8.3 g/dl,血小板4.9×104/μl(前医で赤血球・血小板輸血後),LDH 1,300 IU/l. 骨髄は過形成で芽球から顆粒の豊富な前骨髄球レベルに分化した白血病細胞を65.7%認めた.ペルオキシダーゼ染色陽性,Auer小体陽性で,FAB分類ではM2に該当した.フローサイトメトリー検査では,CD13+,CD33+,CD34+,HLA-DR-/+で,リンパ球系のマーカーは陰性.染色体検査は46,XY,t(9;22)(q34;q11) [17] /46,XY [3],間期核FISHではBCR/ABL 融合シグナル22.5%陽性(minor BCRパターン),キメラmRNAはminor BCR/ABL 1×105copies/μg RNAであった.治療経過: イダマイシン+シタラビンによる寛解導入療法を行ったが白血病細胞が残存した.上記結果が判明した後, イマチニブの投与を開始したところ骨髄中の白血病細胞は増加傾向を示した.次いで,ダサチニブに変更したが白血病細胞はさらに増加した.チロシンキナーゼ阻害薬による治療は断念し,高用量シタラビンに変更したが治療に反応せず入院後4か月で死亡した.考案: 間期核FISHでt(9;22)/Ph陽性細胞は白血病細胞の一部を占めるに過ぎなかったことから,この染色体転座は二次的な異常であった可能性が高い.本例において,t(9;22)/Phとp190 BCR/ABL蛋白の発現が,AMLの発症・進行に果たした役割は限定的であったと考えられた.
著者
大野 仁嗣
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.1-9, 2014-01-20 (Released:2014-02-22)
参考文献数
34

悪性リンパ腫の診断・分類は, 病理形態やフェノタイプ解析によるところが大きいが, 染色体・遺伝子変異の情報も極めて重要である. 悪性リンパ腫には多くの染色体転座が認められ, 病型や病態と密接に関連している. 染色体転座は, 転座切断点に位置する腫瘍関連遺伝子が抗原受容体遺伝子に近接することによって発現調節に異常を来すタイプと, 転座によって2つの遺伝子が融合しキメラ蛋白をコードするタイプに大別される. 悪性リンパ腫に認められる転座の多くは前者に属し, 特に免疫グロブリン遺伝子と関連した転座の頻度が高い. 染色体分析はGバンディングに加えてFISH解析を行う. FISHは染色体転座切断点に該当する2つのDNAプローブを異なる蛍光色素でラベルし, 蛍光顕微鏡下で融合シグナルや分離シグナルを観察する方法である. FISHは分裂核だけでなく, 間期核にも応用可能である. B細胞リンパ腫の代表的な染色体転座である t(8;14)(q24;q32) と t(14;18)(q32;q21) は, 免疫グロブリン重鎖遺伝子の各領域と, MYC遺伝子やBCL2遺伝子に設計したプライマーを用いたPCRで転座接合部を増幅することができる. 濾胞性リンパ腫では t(14;18)(q32;q21), マントル細胞リンパ腫では t(11;14)(q13;q32), MALTリンパ腫では t(11;18)(q21;q21) と t(1;14)(p22;q32), 未分化大細胞リンパ腫では t(2;5)(p23;q35) が高い頻度で認められ, 病型特性が高い. 一方, びまん性大細胞型B細胞リンパ腫では t(8;14) や t(14;18) に加えて, BCL6遺伝子を標的とする t(3q27) の頻度が高い. それぞれの病型には, アレイ解析や次世代シークエンサーによって明らかになったゲノム変異の知見が蓄積され, 悪性リンパ腫発症のメカニズムが次第に明らかになっている.