著者
黒田 義浩 吉岡 英生 大野 義章 鈴村 順三 松浦 民房
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

最近、我々のグループは、電気抵抗に関する森公式の計算に際し、通常のファイマン図法に基づく摂動論が適用出来ることを見つけた(J.phys.Soc.Japan 64 No.11(1995)4092-4096)。今回のプロジェクトの目的は、このようにして得られた森公式の新しい表記法を活用して、先ず、森公式自体に対する従来の理解について見直しを行い、新らたな進展の可能性を探ること、さらにその成果を踏まえて、これまで久保公式では容易に計算できなかった輸送係数の計算を実行することにあった。本来、森公式と久保公式とは全く同等の筈である。実際、単純な不純物散乱の場合や2バンドがある場合等の厳密な計算が出来る場合について、二つの公式の同等性を確認した(J.Phys.Soc.Japan 65 No.2(1996)525-528)。さらに、相関関数間の恒等式を用いて、森公式と久保公式とが厳密に一致することを示した(J.Phys.Soc.Japan 65 No.2(1996)342-344)。しかし、実際には近似計算に依らざるを得ない場合が殆どであり、森公式と久保公式とでどちらが有利かという問題が起きる。実際、これまで、電気抵抗を簡単に計算できる方法として、森公式に基づくメモリー関数近似法が重用されてきた。そこで、我々は、森公式と久保公式を用い、不純物散乱やd-p軌道混成項による電気抵抗を同一の近似法で計算し、両者の結果を比較したところ、両者は全く同等であった。また、メモリー関数近似法は高周波極限でのみ正しい表式であって、従来の利用の仕方は間違っていることも判った(J.Phys.Soc.Japan 66 No.9(1997)2790-2797)。結局、これらの研究を通して、久保公式と森公式は本来同等であり、同等の近似方法を適用する限り同等の結果を与えること、また、実際に多粒子系における輸送係数を計算するに際しては、その計算の手順は、森公式を用いる場合の方が却って複雑になる場合が多いことを明らかにした。