著者
東 大 内田 奈緒美 坂本 望 牧野 智宏 新井 良和 長嶋 比呂志 大鐘 潤
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第106回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.OR2-28, 2013 (Released:2013-09-10)

Myostatinをコードする遺伝子Mstnは,TGF-βスーパーファミリーのGDFファミリーに属し,骨格筋の分化を制御する。分化後の筋細胞から分泌されたMyostatinは,筋組織の幹細胞であるサテライト細胞の増殖抑制や,筋芽細胞から筋管への分化抑制等の作用を通じて,骨格筋組織の発生と再生を抑制する。Mstn変異または欠損の動物は筋肥大が顕著であり,畜産において家畜の筋肉量増加を目的とした研究などで注目されてきた。しかし,Mstn欠損または機能不全の家畜動物は,体格の違いによって繁殖が困難なことや,飼糧が大量に必要であることなどの問題がある。また,Mstn欠損は脂肪形成を抑制するため,日本で重要とされる食肉としての品質にも問題があると考えられる。Mstnの骨格筋特異的な機能を畜産において有効に利用するためには,遺伝子の欠損や完全な不活性化ではなく,発現量を微調節することが必要であると考えられる。遺伝子プロモーター領域のDNAメチル化は,転写因子の結合を阻害し,発現を抑制する。このDNAメチル化は,可逆的な化学修飾であるため,DNAメチル化状態の改変によって遺伝子発現を調節できる可能性がある。また,改変する度合いによって遺伝子の発現量を調整できると考えられる。そこで,ブタ主要組織におけるMstn転写開始点近傍のDNAメチル化状態とmRNAの発現をバイサルファイト法とRT-PCR法を用いて解析した。その結果,Mstn転写開始点近傍は骨格筋でのみ低メチル化状態であり,mRNAの発現も骨格筋特異的であった。この結果から,Mstnプロモーター領域のDNAメチル化状態とmRNAの発現は逆相関していることが明らかとなり,Mstnはプロモーター領域のDNAメチル化状態の変化によって発現調節されることが示唆された。
著者
早川 晃司 大鐘 潤 田中 智 塩田 邦郎 八木 慎太郎
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第104回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.6, 2011 (Released:2011-09-10)

哺乳動物のゲノム上には組織・細胞種依存的なメチル化可変領域(T-DMR)が多数存在し、T-DMRのメチル化・非メチル化の組み合わせであるDNAメチル化プロフィールは細胞種固有の機能発現に重要な役割を果たしている。ヒストンH1ファミリーに属するH1fooは、卵核胞期から受精後2細胞前期までの限られた時期・細胞のみで発現する。H1fooは T-DMRを有し、雌性生殖細胞系列でのみ脱メチル化され、体細胞および雄性生殖細胞系列ではDNAメチル化によって発現が抑制されている。H1fooは体細胞核のリプログラミングや卵成熟に関わることが知られているが、その機能については明らかでない。そこで本研究では、マウスES細胞にH1fooを強制発現させることで、H1fooの機能解析を行った。H1foo発現ES細胞(H1foo-ES)を胚様体または神経細胞へと分化させる条件で培養すると、H1foo-ESはコントロールES細胞(Control-ES)で認められた分化に伴うマーカー遺伝子群の発現変化が起こらず、未分化細胞と類似した発現パターンを示した。発生・分化に伴いメチル化状態が変化するT-DMR(196遺伝子)をバイサルファイト法により調べた結果、H1foo-ESでは分化に伴う変化が認められず、特にControl-ESで分化後にメチル化される遺伝子群において顕著であった。一方で、H1foo-ESでは未分化条件下でも11のT-DMRにおいてControl-ESとDNAメチル化状態の差異が認められた。その中にはNoboxなどの卵特異的な遺伝子が含まれており、Control-ESに比べH1foo-ESおよび未受精卵で低メチル化状態だった。さらに、クロマチン免疫沈降法により、これらの領域へのH1fooの結合が認められ、H1fooによるT-DMRのメチル化変化であることが示唆された。これらの結果は、H1fooは特定の遺伝子領域のメチル化状態を変化させ、未分化ES細胞のDNAメチル化状態を維持することを示している。すなわち、H1fooは、卵および初期胚に特異的なDNAメチル化プロフィール形成に関与し、それゆえに非発現細胞ではDNAメチル化により発現が厳しく抑制されていると考えられる。