著者
若山 照彦 幸田 尚 小保方 晴子 野老 美紀子 リ チョン 寺下 愉加里 水谷 英二 グェン ヴァン トン 岸上 哲士 若山 清香 石野 史敏
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第106回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.P-102, 2013 (Released:2013-09-10)

【目的】哺乳動物のクローン作出は,優良家畜の大規模な生産や絶滅危惧種の保全を可能にする新しい技術として期待されてる。しかし現在の成功率では一度に大量のクローン動物を作ることは出来ないため,クローン動物の体細胞から再びクローン動物を作り出す連続核移植(再クローニング)技術が必要だと考えられていた。ところがこれまでの報告では,再クローニングを繰り返すごとに出産率は低下し,マウスで6世代,ウシやネコで2世代までが限界だった。この原因は,クローン技術特有の「初期化異常」が,核移植を行うたびに蓄積するためと考えられていたが,成功率が低すぎるため検証できていなかった。そこで今回我々は,最新の技術を用いて再クローニングに限界があるのか確かめてみた。 【方法】我々は2005年にトリコスタチン A(TSA)が初期化を促進し,クローンマウスの出産率を大きく改善できることを発見した。そこでTSAを用いて1匹のドナーマウス(BD129F1)からクローンマウスを作り(G1と呼ぶ),このクローンマウスが3カ月齢になった段階で再びクローンマウスを作製した(これをG2と呼ぶ)。以降これを繰り返した。生まれた再クローンマウスについて,テロメアや妊性,網羅的遺伝子発現などを調べ,自然マウスおよびG1クローンマウスと比較し,エピジェネティック異常が蓄積されるか調べた。 【結果】現時点で27世代,合計645匹のクローンを作ることに成功している。核移植の出産率は1世代目の7%から上昇傾向を示し,最高で15%を記録している。G20クローンの繁殖能力,寿命,テロメアの長さなどに異常は見られなかった。また網羅的遺伝子発現解析により核移植を繰り返しても初期化異常は蓄積しないことが明らかとなった。これらの結果は,再クローニングはほぼ無限に繰り返せることを示している。Wakayama et al., Cell Stem Cell 2013.
著者
東 大 内田 奈緒美 坂本 望 牧野 智宏 新井 良和 長嶋 比呂志 大鐘 潤
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第106回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.OR2-28, 2013 (Released:2013-09-10)

Myostatinをコードする遺伝子Mstnは,TGF-βスーパーファミリーのGDFファミリーに属し,骨格筋の分化を制御する。分化後の筋細胞から分泌されたMyostatinは,筋組織の幹細胞であるサテライト細胞の増殖抑制や,筋芽細胞から筋管への分化抑制等の作用を通じて,骨格筋組織の発生と再生を抑制する。Mstn変異または欠損の動物は筋肥大が顕著であり,畜産において家畜の筋肉量増加を目的とした研究などで注目されてきた。しかし,Mstn欠損または機能不全の家畜動物は,体格の違いによって繁殖が困難なことや,飼糧が大量に必要であることなどの問題がある。また,Mstn欠損は脂肪形成を抑制するため,日本で重要とされる食肉としての品質にも問題があると考えられる。Mstnの骨格筋特異的な機能を畜産において有効に利用するためには,遺伝子の欠損や完全な不活性化ではなく,発現量を微調節することが必要であると考えられる。遺伝子プロモーター領域のDNAメチル化は,転写因子の結合を阻害し,発現を抑制する。このDNAメチル化は,可逆的な化学修飾であるため,DNAメチル化状態の改変によって遺伝子発現を調節できる可能性がある。また,改変する度合いによって遺伝子の発現量を調整できると考えられる。そこで,ブタ主要組織におけるMstn転写開始点近傍のDNAメチル化状態とmRNAの発現をバイサルファイト法とRT-PCR法を用いて解析した。その結果,Mstn転写開始点近傍は骨格筋でのみ低メチル化状態であり,mRNAの発現も骨格筋特異的であった。この結果から,Mstnプロモーター領域のDNAメチル化状態とmRNAの発現は逆相関していることが明らかとなり,Mstnはプロモーター領域のDNAメチル化状態の変化によって発現調節されることが示唆された。
著者
渡邉 剛広 島 麗香 坂原 聖士 高倉 啓 黒谷 玲子 阿部 宏之
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第106回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.OR1-15, 2013 (Released:2013-09-10)

【目的】ミトコンドリア内膜に存在する呼吸鎖複合体IV(シトクロムcオキシダーゼ:COX)は電子伝達系の終末酵素である。COXは機能分化した体細胞において詳しい機能解析は行われているが,卵子や初期胚における研究はほとんど進んでいない。本研究では,マウスの初期発生におけるCOXの役割を調べるために,未受精卵子から器官形成期までの初期発生におけるCOX mRNA発現とミトコンドリア呼吸機能を解析した。【方法】ICR系雌マウスからMII期卵母細胞,1細胞期〜8細胞期胚,桑実胚,胚盤胞および胎生8.5日胚(E8.5)を回収した。各発生ステージにおいて,COXを構成する全13サブユニットのmRNAをRT-PCRにより解析した。また,卵母細胞および胚において(1)酸素消費量,(2)活性型ミトコンドリアの局在と相対膜電位,(3)ATP含量を解析した。【結果】ミトコンドリアゲノム由来のCOX1,COX2およびCOX3のmRNAは,全ての発生ステージの卵母細胞および胚において検出された。一方,核ゲノム由来COXの mRNAは,MII期の卵母細胞ではCOX6a,COX7bおよびCOX7cを除く7サブユニットのmRNAが検出されたが,1細胞期から8細胞期の胚においてこれら7サブユニットのmRNAは著しく発現量が低下した。桑実胚および胚盤胞ではCOX7cを除く9サブユニットのmRNAが検出され,E8.5では核ゲノムにコードされる全サブユニットのmRNAが検出された。この核ゲノムCOX mRNAの増加は,酸素消費量の増加とミトコンドリア膜電位活性の上昇と一致した。本研究では,未受精卵子から器官形成期胚に至るマウス初期発生におけるCOX mRNAの発現パターンの解析に初めて成功した。ミトコンドリアゲノムと核ゲノムのCOX mRNAはそれぞれ異なる発現パターンを示し,ミトコンドリア呼吸機能の亢進に核ゲノムCOXサブユニットが重要な役割を果たしていることが示唆された。