- 著者
-
太刀川 平治
- 出版者
- The Institute of Electrical Engineers of Japan
- 雑誌
- 電氣學會雜誌 (ISSN:00202878)
- 巻号頁・発行日
- vol.49, no.492, pp.733-741, 1929
先づ碍子劣化に關する統計の尊重すべき所以を説き、次に東京電燈株式會社の110,000ヴオルト以上の送電幹線の内、四年以上の送電記録を有する猪苗代舊線、上越線、群馬線、甲信線の四線路に使用せらるる各種の碍子に就き,平均一年の劣化率を表示せり。此表の中に含まるる碍子の種類は5種、總数は287,800個にして、其内譯は下表の如し。但しG型と稱するは著者の考案に依り内地にて試作せるセメントレス型のものなり。<br>和製12吋 76,800個<br>和製10吋 161000"<br>和製G型 800"<br>Ohio Brass 28,600"<br>Locke 1,800"<br>Jeffery-Dewitt 28,800"<br>本表の示す所に依れば和製碍子の成績は昔日に比して著しく改善せられ十吋碍子にありては平均一年劣化率は1.0%以下に降りつつあるものの如し。然れども他面に於ては外國製の優良碍子は和製碍子に比して壓倒的優勢なる成績を示せり。之を他山の石となして和製碍子の益々改良せられん事を切望す。送電線路の經濟關係より云へば、碍子の劣化率が資金の利率より著しく低率となれる今日に於ては、結局first costの廉なる和製碍子を採用するを得策とす。然れども送電事故を減少する目的としては優良碍子を採用せざるべからざるは勿論なるを以て、實際に碍子の採否を決定する場合に於ては此二つの見解を適當に調和せしむる事を要す。<br>次に大正十三年以降昭和三年に至る5年間東京電燈株式會社の110,000ヴオルト以上の送電幹線總亘長約1,200キロメートルの線路に起りたる落雷の影響と認むべき源因に依る送電事故を表示せり。其事故總數69件にして,一年一線路平均約3件なり。事故全數の内約70%は單に閃越放電事故に止まれるものにして、殘余の約30%は碍子に損傷を伴へるものなり。而して事故發生の時刻は午後四時に最大にして、其季節は七月に最大なる記録を示せり。<br>架空地線の保護效用は頗る著大にして、二條架捗のものと一條架捗のものとを比較するに、平均一年一線路事故發生數は約1と3との割合なり。然るに上中下三段の腕金別に依る事故發生數を調査するに、下段腕金に最も多くして總數の約45%を占め、中段腕金に於ては約35%上段腕金に於て最も少くして約20%なり。<br>即ち事故發生の割合は殆んど地線架捗點よりの距離に正比例すといふも大差なきが如し。之に依りても明かなるが如く、地線の直下に在る凡べての導線は地線に依りて落雷の影響より遮蔽せられあるが故に安全なりとの觀念は誤たり。地線架捗位置として推奨すべきは地線一條の場合に從來の如く鐵塔頂上の代に之を中段腕金に移し、各導線と地線との距離を殆んど均一ならしむるを可とす。之に依れば上段腕金の導線はdirect strokeの落雷に對しては殆んど無保護なるも、此場合は實例少く、多くの場合に於ては各導線を成るべく均一に保護し結局一線路としての事故發生數を減少せしむるの利ありと信ず。此説は實驗に依りて確められた譯にもあらざれば猶今後の研究を要するものなり。