著者
太田 俊二 福井 眞
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

温帯性蚊の生活史にもとづく季節的消長を表現するようなモデルとして、冬季に成虫休眠の生活史特性をもつイエカ(Culex pipiens)と卵休眠をするヒトスジシマカ(Aedes albopictus)それぞれの個体群動態モデルを開発した。本研究では東京・新宿区で10年以上にわたって採取されたデータを活用し、個体群動態モデルのパラメーター推定を行った。これまでは休眠に関して日長感受性をモデルに組み込んでいたが、本年度は温度感受性もモデルに組み込むことにより、現在気候下での季節的消長について再現性を高めることに成功した。本研究で開発した個体群動態モデルは、蚊の発育段階を考慮しており、幼虫や蛹などの水中生活段階において降水による影響を組み込むことができる。観測データに合わせてモデルを選択したところ、降水の影響を含まない場合よりも影響を組み込んだ場合の方が再現性は高かった。このモデルを用い、MIROC5を用いて2081年から2099年における将来気候下でのイエカ・ヒトスジシマカの個体群動態をシミュレートしたところ、種によって挙動が異なっていた。ヒトスジシマカはこれまで懸念されていたように、温室効果化ガス排出が多いシナリオ(RCP8.5)において活動期の個体数増加の傾向が見られた。ただし、排出が少ないシナリオ(RCP2.6)においては1991年から2009年までの過去の個体群動態を再現した場合と大きな差はなかった。これに対し、イエカは排出シナリオにかかわらず、活動期の個体数が減少することが示された。蚊の種によって媒介する感染症がことなり、イエカは日本脳炎、ヒトスジシマカはデング熱やジカ熱などを媒介するため、蚊の種類に応じた感染症対策が必要となる。本研究は気候変動によって蚊媒介性の感染症のリスクについて、蚊の個体群動態モデルの開発を通して時間解像度が高い知見を提供することができた。
著者
清野 豁 甲斐 啓子 太田 俊二 菅野 洋光 山川 修治
出版者
日本農業気象学会
雑誌
農業気象 (ISSN:00218588)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.179-186, 1998
被引用文献数
1

In this paper, new knowledge of global warming is briefly described on the basis of the 1st and 2nd Working Group of IPCC (Intergovernmental Panel of Climate Change) published in 1996. The contents of this paper are arranged according to the oral reports in the 7th gathering of the Researching Group for Impacts of Climate Change (ICC) in the Society of Agricultural Meteorology of Japan on June 7, 1997. The main authors are as follows: Seino is §1 and §4, Kai in §2, Ohta in §3, Kanno and Yamakawa in §5. Observed climate change, its variability and uncertainty are discussed in §2. Assessment of impacts of climate change on terrestrial ecosystem is presented in §3. Agriculture under changing climate is introduced in §4. In §5, some problems as to the IPCC reports are mentioned including the discussions in the meeting.