著者
中嶋 仁 加納 一則 奥川 和幸 中川 法一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Da0985, 2012

【はじめに】 呼吸リハビリテーションにおける排痰法は、気道、肺包内の分泌物を移動促進させ肺包換気を改善させることで、無気肺、肺炎予防を行う重要な方法である。排痰法には、体位ドレナージ、咳嗽、ハッフィング、呼吸介助、スクイージング、機械刺激等がある。その中でも、体位ドレナージ位でのハッフィングは、末梢気道領域に分泌物が存在する場合に第一に用いられる排痰法である。また、ハッフィング時に患者が両腕を組み胸郭を介助することで呼気流量が増大し分泌物の移動を促進するとされており、排痰法の指導方法としてもよく目にする。しかし、臨床場面において患者から、胸が上手く押せない、息を吐く時と胸を押すタイミングが分からない等の声を聞くことがある。また、自己胸郭介助を行っている患者を見ても、呼気流量が明らかに増大している印象を持つことが少ないため、ハッフィング時に自己胸郭介助を行うことの有用性に疑問を持つ。 そこで今回の研究の目的は、ハッフィング時の自己胸郭介助の有無や介助方法の違いによる、最大呼気流量(PEF)の変化を調査することである。【対象】 対象は、肺疾患を有さない健常人18名(男性12名、女性6名)、平均年齢34.5±9.7歳、平均身長167±8.5cm、平均体重62.2±13.5kgである。【方法】 PEFの測定はピークフォローメーター(CHEST社製ASSESS)にフェイスマスクを接続して左側臥位にて行った。対象者は測定前に、ハッフィングと自己胸郭介助の練習を十分に行った。そして、胸郭介助を行わない方法(介助無法)、両腕を胸の前で組むようにして両胸郭介助を行う方法(両側介助法)、左上肢は胸の前で組むようし、右上肢は肘屈曲位で体幹に添え右側胸郭のみを介助する方法(片側介助法)の3種類の胸郭介助を行った。各3回ずつ測定し、それぞれの最大値を採用した。統計学的分析として、介助無法、両側介助法、片側介助法によるPEFの平均値を一元配置分散分析を用いて検討した。【説明と同意】 今回の研究は、当院の倫理委員会の規定に基づいて実施した。本研究の趣旨、内容、中止基準および個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で研究協力の承諾を得た。【結果】 介助無法の平均PEFは282.7±72.5L/min、両側介助法は275±72.4 L/min、片側介助法は276.1±77.2 L/minであった。3種類の自己胸郭介助法の間に有意な差は認められなかった。【考察】 用手的呼吸介助手技のように、呼気時に他動的に胸郭を介助することでPEFが増大することは知られている。今回の研究において、自己で胸郭介助を行ってもPEFに変化が無いことがわかった。PEFが変化しなかった理由は、腕組をして胸郭介助することは胸郭の解剖学的運動方向に合わせて介助することに、限界があるためだと考える。排痰能力は呼吸機能だけでなく、分泌物の性状や量、および気道状態が影響するため、PEFの値だけで評価することは難しい。しかし、排痰時時に自己胸郭介助を行うか否かは大きな問題ではないことが窺える。排痰法を必要とする呼吸器疾患患者には高齢が多いため、ハッフィングと胸郭介助といった異なった動作を同時に行うことは非常に難易度が高い。そのことから、ハッフィングそのもの能力を低下させてしまう恐れがあると考える。また、呼吸補助筋である肩甲帯周囲筋や体幹筋が筋力低下している呼吸不全患者にとって、胸郭介助の方に上肢筋を使用することは、息切れ感を増大させる可能性があると考える。高齢者で上肢、体幹の筋力低下が著明な患者には、自己胸郭介助を行う必要性は低く、ハッフィングに集中するように指導した方がよいと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究おいてに、排痰時に胸郭介助を行うことがPEFに影響をおよぼさないことがわかった。本研究は、日々の臨床の中で通常に行われている事に対する再検証作業である。再検証することで新たな発見や再確認にするべき事が出てくる。そのことが、明日からの理学療法への自信と確信になりうる可能性があることから、本研究の意義は深いと考える。
著者
中嶋 仁 一圓 未央 奥川 和幸 東 大輝 松本 浩希 真田 将幸 加納 一則 辻 文生 中川 法一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.D3O1160, 2010

【はじめに】包括的呼吸リハビリテーション教育入院(包括的呼吸リハ教育入院)の目的の一つは、運動習慣や健康増進に向けた自己管理能力を身につけることである。そして身体活動量の向上を図り、得られた効果を退院後もできるだけ長く維持させることである。しかし包括的呼吸リハ教育入院における効果報告は、呼吸困難感の軽減、運動耐容能の改善、健康関連QOLおよびADLの改善がほとんどで、身体活動量の変化を報告したものはほとんどない。身体活動量の変化を把握することは、呼吸や運動機能の効果を知るだけでなく情意や心理面に伴う変化を知るうえでも重要である。そこで今回の研究目的は、包括的呼吸リハ教育入院における運動習慣の実態を把握するために、教育入院前と退院後の身体活動量の変化を調査することである。また、運動耐容能、健康関連QOL、ADLの変化も合わせて調査する。<BR>【対象】対象は、当院における包括的呼吸リハ教育目的に入院した独歩可能な慢性呼吸器疾患患者16名(COPD15名 気管支拡張症1名)、男性15名、女性1名、平均年齢69.7 ±13.3歳であった。喫煙者、継続調査が出来なかった者、骨関節障害、脳血管障害を有す者は本研究より除外した。<BR>【方法】運動耐容能、ADL、健康関連QOLの評価を入院前1か月と退院後1か月に行った。運動耐容能の評価は6分間歩行テスト(6MWT)をおこなった。ADLの評価は、千住ADL評価表を用いた。健康関連QOLは疾患特異的尺度のThe St.George'S Hospital Respiratory Questionnaire(SGRQ)を用いた。<BR>身体活動量の評価は、スズケン社製の多メモリー加速度計測装置付き歩数計(ライフコーダー)を用いて計測した。計測値は、入院前1か月間と退院後1か月間の起床から就寝までの1か月間の最大歩数と1日の平均歩数とした。統計学分析は、入院前と退院後の各評価項目の平均値を求めt検定を用いて検討した。<BR>【説明と同意】今回の研究は、当院の倫理委員会の規定に基づいて実施した。本研究の趣旨、内容、中止基準および個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で研究協力の承諾を得た。<BR>【結果】6MWTは入院前が258.6±107.3m、退院後が317.6±317.9mであった(P<0.05)。千住ADLテストは、入院前が66.87±16.12点、入院後が78.35±22.28点であった(P<0.05)。SGRQの総得点は入院前が40.18±21.48点、入院後が35.05±18.04点であった(P<0.05)。身体活動状況としての1日の平均歩数は入院前が3416±2639.8歩、入院後が5491±2853.6歩であった(P<0.005)。最大歩数は入院前が5405.5±3751.9歩、退院後が8553.8±4492.9歩であった(P<0.001)。<BR>【考察】当院における包括的呼吸リハ教育入院は2週間であるが、諸家の報告通り運動耐容能、健康関連QOL、ADLは入院前と比較して退院後は有意に改善した。身体活動量は、入院前と比較して退院後は有意に増大した。以上の結果より、多職種がチームを組みさまざまな側面から介入する包括的呼吸リハ教育入院は、自己管理能力を高め運動習慣をつけることが出来たと考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は、包括的呼吸リハ教育入院がADLやQOLだけでなく身体活動量も向上させることが明らかになったことである。退院後の身体活動量を把握することは、包括的呼吸リハビリテーション教育入院プログラムを再構築するうえで重要である。<BR>