著者
奥村太一
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

問題と目的 縦断研究は,個人の成長や発達といった時間経過に伴う変化を記述するだけでなく,何らかの働きかけとそれがもたらす効果との間の因果関係を検証する上でも有用である。一言で縦断的にデータを収集するといっても,その期間や頻度は目的に応じて様々であり,短いものでは1週間程度,長いものでは数十年に及ぶ場合もある。 データ収集の期間や頻度に関わらず,同じ対象者や集団から繰り返しデータを得ようとすると様々な手間や困難に直面することになる。調査が紙媒体で行われる場合には,アンケート用紙の印刷や封入の手間に加え,用紙の郵送や未回答者への督促状の送付に係る経費がかさむ上,データ入力や紐付け情報の整理も煩雑であり,個人情報の管理にも多大な注意を払う必要がある。 一方,近年インターネットの普及に伴い,Web上で研究協力者の募集から調査フォームのメール配信,結果の集計までの行程を一括して行えるようになった。Webアンケートの実施をサービスとして展開する企業が数多く進出してきた一方で,Googleフォームに代表される無料のアンケートツールも心理学研究に広く用いられるようになってきている(豊田, 2015他)。 Webアンケートシステムを利用することで,紙媒体の調査では不可避であった様々な手間や経費が圧倒的に節約されるようになった。しかし,これを縦断研究に利用するにはまだ十分な環境が整っているとはいえない。限られた期間において集中的にデータを集める経験サンプリング(experience sampling)や生態学的即時的アセスメント(ecological momentary assessment)を可能にするようなサービスは海外を中心に広く展開されているが(Thai & Page-Gould, 2017他),多くの縦断研究はそこまでの時間分解能を必要とするわけではない。このような研究に無償で利用できるWebアンケートシステムがあれば,縦断研究の幅はより広がると考えられる。 本研究では,Googleによって提供されているサービスを用いることで,縦断研究に利用できるWebアンケートシステムを構築することを試みる。方 法 Googleによって提供されているアプリケーションのうちDrive, Forms, Gmail, Spreadsheetを用い,Google Apps Script(GAS)によってこれらを制御する。Googleアカウントを利用することで,利用者は個人でサーバを立ち上げたり管理したりすることなく,容易にWebアンケートシステムの環境を整えることができる。また,GASはJavaScriptをベースとしたスクリプト言語であり,習得が比較的容易であるとされていることから,ユーザーがより発展的なシステムにカスタマイズすることも決して困難ではない。結果と考察 今回構築したシステムは,以下の要素から成っている。()内は対応するアプリケーションである。 1.参加登録フォーム(Forms) 2.調査フォーム(Forms) 3.参加者メールアドレス(Spreadsheet) 4.スケジュール(メール配信,リマインダー配信,回答締め切り,集計)(Spreadsheet) 5.調査フォームコピー先フォルダ(Drive) 参加者は参加登録フォームからメールアドレスをフェイスシート項目を登録する。このメールアドレスに調査フォームをスケジュールに従って配信するのだが,データ紐付けのためのIDやパスワードを発行せずともすむよう,参加者ごとに調査フォームをコピーしたものの個別URLをメールにて送信するようになっている(Google Driveでは同名のファイルコピーが許される)。回答期間締め切り前に未回答の参加者にリマインダーが送信され,回答を締め切った後に個々のフォームに記録された回答が1つのスプレッドシートに参加者識別番号やフェイスシート項目とあわせてロングフォーマットで集約されることになる。これらはイベントトリガーによって全て自動的に処理される。引用文献高橋宣成 (2018). Google Apps Script 完全入門 秀和システムThai, S., & Page-Gould, E. (2017). ExperienceSampler: An open-source scaffold for building smartphone apps for experience sampling. Psychological Methods. Advance online publication. 豊田秀樹 (2015). 紙を使わないアンケート調査入門 ―卒業論文,高校生にも使える 東京図書
著者
奥村 太一 森 慶輔 宮下 敏恵 西村 昭徳 北島 正人
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.86, no.4, pp.323-332, 2015
被引用文献数
4

In this study, we developed a Japanese version of the Maslach Burnout Inventory - Educators Survey (MBI-ES). We also examined the reliability and validity of the scale, based on data from Japanese schoolteachers. Because some items related to depersonalization showed a floor effect, the reliability of the MBI-ES was evaluated using item response theory (IRT), which can evaluate the difficulty of the items. The IRT analysis showed that scores of emotional exhaustion and personal accomplishment had high reliabilities among the wide range of distribution of the latent scores around the means. However, the reliability of the depersonalization items was estimated to be moderate when it was implemented among highly depersonalized teachers, whereas the reliability was lower for relatively healthy teachers. Correlations with the General Health Questionnaire, frequency of emotional labor, and job satisfaction were mostly consistent with previous research and the current theory of burnout, supporting the high validity of the Japanese version of the MBI-ES.