- 著者
-
奴久妻 駿介
- 出版者
- 北海道社会学会
- 雑誌
- 現代社会学研究 (ISSN:09151214)
- 巻号頁・発行日
- vol.35, pp.1-17, 2022-05-31 (Released:2022-08-01)
- 参考文献数
- 23
これまで日本に在住する外国人児童生徒の教育に関しては,多文化主義からの考察があまりされては来なかった。そこで,本研究では,文部科学省に設置された「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」の議事録を基に,国家レベルの議論の中で,外国人児童生徒の母語に対する教育はあくまで私的領域に留まるものなのか,あるいは,国家的な目標として公的領域に設定されるべき課題なのかという問いを立て,考察を行った。研究方法としては,同会議第1 回目から9 回目までの議事録を参考に,KHCoder による共起ネットワークの作成とコロケーション統計を用いた分析及び資料の質的考察の段階的な研究を行った。同会議における「日本語」と「母語」,「ボランティア」,「取組」のキーワードを基に内容の分析と考察を行った結果,そこでは,日本語教育が中心的な議題として設定されており,母語に関する議論は課題の共有はされてはいたが,その実践的提案においては未だ不十分な段階にある実態がわかった。まとめると,本議論では,外国人児童生徒の母語へのサポートの重要性を認識しつつも,最優先事項は日本語教育という立場があり,母語は尊重するものの,公的領域では,国家の統一性として日本語を学ぶべきという立場にある事がわかった。すなわち,共同体の善が優先されるコミュニタリアニズム的な多文化主義が共通前提としてある,というのが暫定的な結論である。