著者
姜 娟
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.267-287, 2009-02-23 (Released:2017-10-21)
参考文献数
115

21世紀に入って,世界中で「イノベーション」の言葉を冠した,各国政府による長期戦略が次々と打ち出されている。そうした長期戦略は時代変化の挑戦に対する意識的な応答といえるが,今日においては,「イノベーション」の用語が最も使用頻度の高い政策常套語になっている。しかし,「イノベーション政策」の概念の意味自体が,時を経て,変化してきている。本論考は,「イノベーション政策」とはどのような性格をもった政策的対応であるか,また「イノベーション政策」におけるイノベーションとは如何なることであるかを,今日の段階で改めて見極めることが重要であるという想定に立っている。その考察のためには,「イノベーション政策」の来歴,その後の展開,そして現在の到達点を跡づけてみることが必要であり,有用である。本稿においては,その発足時から現時点にいたるまでのOECDにおける関連領域の政策研究や論議を取り上げ,イノベーション政策の展開を学習過程として捉え,そこにおける政策ニーズと知的努力の間,政策アイディアと理論的,経験的研究の間の共進化を解明する。
著者
姜 娟 原山 優子
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.63-77, 2005
参考文献数
72
被引用文献数
4

1980年代以降に顕著となる, 科学技術政策と地域政策との意識的な接合-それを「地域科学技術政策」と呼ぶことにする-への取り組みは, 社会における科学・技術の位置や性格の変化とグローバル化という二つの大きな歴史的変化を背景とした科学技術政策と地域政策の双方における一つの転換を印している。その転換において, 新たな政策の目標や手段は, 時代変化の性格とそれが課す挑戦についての一定の理論的理解に基づくと同時に, 政策の形成や実施の制度的条件によっても規定されるが, さらに, 政策転換も一直線ではなく, 学習によって段階を経るという点で歴史的経路依存性をもっている。本稿においては, 「地域科学技術政策」は当初の「サイエンス・パーク・パラダイム」から, 90年代に入って, 「ラーニング・リジョン・パラダイム」へ進化してきたと捉えているが, 日本におけるその進化過程を欧米におけるそれとの対比で検討する。
著者
鈴木 潤 姜 娟
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.195-208, 2012
参考文献数
15

近年,「グリーン・イノベーション」に対する重視と重点投資は,世界的な潮流となっている。しかし真に有効な関連政策や企業戦略などを検討するためには,従来言われてきた「日本の環境技術は世界一である」という通説を盲目的に引用することは慎むべきであり,今一度冷静に各種の環境関連の「コア技術」とそれらをサポートする「近隣技術」を俯瞰し,日本企業の技術競争力の国際的位置づけをエビデンスに基づいて明らかにすることが必要であると考えられる。本論文では,PATSTATを用い,IPCコードの「共起」に基づいて,より科学的かつ合理的な環境技術の定義法を提示するとともに,各技術分野の「近隣技術」を同定し,分析の視野に加えた。さらに,企業が自国の国内に多くの特許を出願するという"home country bias"を考慮したうえで,新たに定義された個々の技術領域の「コア技術」及び「近隣技術」における各国の国際特許出願数を集計し,国単位のマクロレベルで,各技術分野における日本の国際競争力の実像の把握を試みた。これらの分析の結果,環境技術のほとんどの分野において世界で最も高い技術競争力を有するのはほぼ例外なく米国とドイツであり,日本はいくつかの分野でトップではあるものの,圧倒的とは言えないという事実が明らかになった。さらに,特定の分野ではアジアの新興国による追い上げを受けている。少なくとも現時点で日本が「世界一の環境大国」であるとするのは幻想であるかもしれない。