著者
小島 悦子 季羽 倭文子 菊地 美香 菅原 邦子
出版者
天使大学
雑誌
天使大学紀要 (ISSN:13464388)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-12, 2008

日本は、高齢化率の上昇に伴い、がん罹患数および死亡数ともに増加し続けている。がんによる死亡数は年間32万人を超えたが、緩和ケア病棟は全国に3,399病床(2007年)のため、がん患者の約85%は一般病院で最期を迎えることになる。日本ではリビングウィルや事前指示書などを作成する習慣が一般的ではないため、予後が限られた中でも家族が求めれば濃厚な医療が継続されることが多い。そのため医療費の中で終末期医療費が占める比率が高いが、国民皆保険制度に守られている日本人にとって医療費の負担が大きい問題とはなっていない。しかし、今後30年間は高齢化率が上昇し続けるため、終末期医療費の増加は避けられない状況にある。そのため国は在宅ホスピスケアを推進したいと考えているが、地方自治体の協力体制が不十分であることや、訪問看護システムが十分発達していないことから、在宅ホスピスケア研修が推進されない状況にある。また、一般の人々も家族への負担や急変時の対応などを懸念し、自宅で最期を迎えることに強い不安を抱いている。今後、高齢者世帯の増加とともに、一層不安は強くなると考えられる。自然なプロセスを辿って死を迎えることを尊重するために、がんと診断されてから死に至るまでその人の療養生活の質が一貫して保たれるような医療システムの構築と教育体制の強化、そして一般市民の終末期医療に関する認識が高まるような取り組みが必要である。