著者
道端 齊 植木 龍也 宇山 太郎 金森 寛 広津 孝弘 大井 健太
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

海水中にはバナジウムやコバルト等わが国ではほとんど産出しない希少金属(レアメタル)が溶解している。これまでに化学的に合成された吸着剤を用いて、これらのレアメタルを海水から捕集する試みは数多くなされてきた。しかし、海水には多くの金属イオンが溶解しているため、目的のレアメタルだけを選択的に分取するのは必ずしも容易ではない。研究代表者のグループはホヤが海水のバナジウム濃度の1,000万倍(10^7)ものバナジウムを高選択的に濃縮することに着目し、その濃縮機構の解明で得られた成果をレアメタルの分取に展開することを計画した。本研究では、ホヤのバナジウム濃縮細胞(バナドサイト)の細胞質から抽出した濃縮のカギを握る12.5kDa、15kDaと16kDaの3種類のバナジウム結合タンパク質(Vanabin)の解析を進めた。その結果、それらをコードするcDNAの全長のクローニングとその解析によってVanabinは{C}-{x(2-4)}-{C}という特徴的なモチーフの繰り返し配列を持ち、金属イオンと結合し易いシステインを約20%も含むタンパク質であること、NMRによって主にαヘリックスから成る新規のタンパク質であること、Vanabin 1モルに約20原子のバナジウムが結合し、その結合定数は10^7Mであることを見出した。さらに本年度の研究により、12.5kDaのVanabinは約10原子の四価バナジウムと結合することが判明した他、15kDaのVanabinは鉄イオンや銅イオンとは選択的に結合しないこと、銅イオンは競争的にバナジウムの結合を阻害することが判明した。一方、この研究期間内では特異的金属結合部位の特定には至らなかったが、現在理化学研究所と共同でVanabinの立体構造の解明を進めつつあり、その結果によっては早晩特異なホヤのバナジウム濃縮機構の解明と応用が期待される。
著者
宇山 太郎
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

海産無脊椎動物のホヤは、遷移金属元素のバナジウムを高濃度かつ高選択的に濃縮している。ホヤのバナジウム濃縮細胞(バナドサイト)には、海水濃度の1000万倍に相当する350mM濃度のバナジウムが含まれている。しかし、このような極端な濃度勾配に逆らって金属元素を濃縮する際に必要なエネルギーをどこから得ているのかはまだ不明であった。われわれは、バナドサイトの液胞内が、pH1.9〜2.4という強い硫酸酸性を示し、そこにバナジウムが低酸化状態の3価に還元されて濃縮されていることを明らかにしてきた。このことは、バナジウムの濃縮に液胞内外のプロトンの濃度勾配が関与している可能性を強く示唆している。本研究では、バナドサイトにプロトンポンプが存在するかどうか、クロマフィン顆粒由来の液胞型H^+-ATPaseの72kDaと57kDaのサブユニットに特異的な2種の抗血清を用いて免疫細胞学的に検討した。その結果、酵素の触媒部位を構成し、植物や昆虫にも共通している72kDaと57kDaサブユニットの存在が、原索動物のホヤでも初めて確認された。次に、バナドサイトの液胞内の低pHが実際に液胞型H^+-ATPaseの働きに依っているかどうかを確かめた。バナドサイトをアクリジンオレンジで生体染色すると、液胞は朱色の蛍光を発して低pHであることが分かる。一方、バナドサイトを液胞型H^+-ATPaseの特異的阻害剤であるバフィロマイシンA_1で処理すると、バナドサイトの液胞は緑色の蛍光を発していた。このことは、バナドサイトの液胞で実際に液胞型H^+-ATPaseが働いて低pHを維持しており、この酵素が阻害されると液胞内外のプロトンの濃度勾配が解消されてしまうことを示している。今後は、この液胞型H^+-ATPaseによって形成されたプロトンの濃度勾配がバナジウムの濃縮とエネルギー的に共役していることを明らかにしていきたい。