著者
加藤 卓己 山崎 裕 佐藤 淳 秦 浩信 大内 学 守屋 信吾 北川 善政
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.121-139, 2013-03

以前我々は,余市町における在宅自立前期高齢者を調査し,口腔カンジダ菌の検出率は,年齢,客観的口腔乾燥の有無,有床義歯の有無と有意に関連することを報告した.約3年後の今回,同町で再調査を行う機会を得た.本研究の目的は,口腔カンジダ菌の関連因子(特に客観的口腔乾燥と有床義歯)に関して詳細に検討し,保菌状態に与える影響を明らかにすることと,約3年の経時的変化を調査し加齢による保菌状態の変化を明らかにすることである.余市町の在宅自立高齢者に対し,2012年に実施した口腔健康調査の際に,明らかな口腔カンジダ症を認めなかった198人(平均年齢75歳)を対象とした.尚,198人中134人は前回の調査と同一の被験者であった.被験者に対して,全身と口腔の健康に関する質問票を記入させ,歯科医師が口腔診査を行った.カンジダ菌培養検査は,舌背および義歯粘膜面より採取した検体を同菌の選択培地であるクロモアガー培地で培養した.被験者全体の口腔カンジダ菌の検出率は80%で,義歯使用者は89%であった.検出率と有意に関連していた因子は,単変量解析の結果(p<0.05)飲酒歴,残存歯数,有床義歯の有無の3つであり,今回は客観的口腔乾燥に有意差は認めなかった.単変量解析で有意差を認めた3項目でロジスティック解析を行ったところ,有床義歯の有無のみが有意に関連する独立因子であった(オッズ比3.5).上顎義歯粘膜面の培養結果から,口蓋が被覆され,人工歯の歯数がより多く,義歯床面積がより大きな義歯は,カンジダ菌検出率が有意に高くなった.また,検出される菌数は,口蓋部よりも歯槽部に有意に多く付着していた.約3年の経時的な変化により,口腔カンジダ菌の検出率は63%から79%と有意な上昇を認め,カンジダ陰性から陽性に転化した被験者において有意に変化した背景因子は,口腔清掃状態であった.3年以内の短期間にカンジダ菌を保菌した被験者の菌叢は,3年以上保菌していた被験者よりも単独菌種の割合が有意に高かった.以上の結果より,今回は客観的口腔乾燥に有意差は認めなかったが,有床義歯の使用および加齢は口腔カンジダ菌の保菌率および菌叢の変化と関連した因子であることが明らかとなった.