著者
安室 憲一
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.47-58, 2015

本稿では、リバース・イノベーションに注目するが、とくに新興国企業による違法な模倣とそうした製品のグローバルな浸透 ( 逆輸出 ) に焦点を置く。新興国企業は、先進国の多国籍企業が提供する製品やサービスを模倣しつつ、自国の社会的条件や市場のニーズに合わせて適応・改良を企て、モジュール化の設計技術を活用しながら、新しいモノづくりを学んでいく。その過程で、しばしば先進国の知的財産権を侵害する。新興国企業の生産様式は、多くの場合、地域の産業集積(モノ作りの生態系)に依存するオープン型の「モジュール型生産」である。こうした新興国企業が内需の停滞などを理由に海外市場に成長基盤を求めて進出し、新興国多国籍企業となる。彼らは、地縁血縁に基づくインフォーマルなネットワークを形成する。そのネットワークが、先進国の「フォーマル・エコノミー」のガバナンス・システムと摩擦を起こす可能性がある。本稿では中国における携帯電話と電子商取引の事例を取り上げ、イノベーションの理由を探索する。21 世紀は、こうした新興国多国籍企業のインフォーマル・エコノミーに立脚した「リバース・イノベーション」が先進国の市場にも到達する時代かもしれない。20 世紀は、先進国企業の多国籍化という「上からのグローバリゼーション」(globalization from above) だった。21 世紀は、新興国多国籍企業による「下からのグローバリゼーション」(globalization from below) の時代になるだろう。その結果、われわれのフォーマル・エコノミーのガバナンスは深刻な影響を受けるだろう。
著者
安室 憲一
出版者
神戸商科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

日本の経済団体を中心に「図書・資料センター」を調査し、基礎資料の発見と体系化を試みたが、戦後の日本の法人外交に関して基礎資料がなく、論議や交渉の過程を記録したアーカイブが存在しないことが判った。経済外交に関する資料の収集や整理が体系化されていないことは国家的損失といえる。アンケート調査により、9.11同時多発テロの後に日本の代表的多国籍企業が、どのような世界認識をもち、どのようなリスク対応戦略をとっているかを明らかにした。主な発見史実は、日本企業の世界認知が多様化していること。国益(日本人の雇用を守ることと定義)から離反せざるを得ない企業が相当数あった。日本企業は、国益と企業益が一致する「貿易立国」から、国益から企業益が自立する「グローバル」段階に達したようである。自立した企業は企業益を守るために「法人外交」の意識と組織を持ちはじめている。とくに東京以外の地域に立地する中堅規模の企業に、外務省に頼らない「法人外交」への志向性が強く見られた。海外でのヒアリング調査では、EU、米国、中国、東南アジアを訪問した。同時多発テロ以降の米国における経営環境については、ハーバード大学のジョーンズ教授(Geoffrey Jones)と議論し、今後の研究協力を約束した。現地調査では、松下電器産業の欧州、北米、アジア統括本社、その他多数の日系企業をヒアリングした。ヒアリングの結果、日系企業では進出先国の中央政府を意識した外交から、地方政府・地域社会をパートナーとした「地域外交」へと比重がシフトしていること。「地域」が独自性をもつことにより、「国家」を経由せずに、グローバルなリンケージを形成しつつあること。そのグローバル・リンケージの有力な手段として、日系子会社や地域統括本社が地域に貢献し始めていることを見出した。以上の研究成果を纏めて、近日中に著書として公刊する予定である。