- 著者
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安川 慶治
- 出版者
- 関西外国語大学
- 雑誌
- 研究論集 (ISSN:03881067)
- 巻号頁・発行日
- vol.88, pp.207-225, 2008-09
エズラ・パウンドは、1910年代のイギリスに自由詩の革新を謳うイマジズム運動を展開し、また後には独特のスタイルで長大な叙事詩『詩篇』The Cantos を綴ったことで知られるアメリカの詩人である。彼はまた、1933年にムッソリーニと面会し、イタリア・ファシズムを新しい時代の可能性ととらえ、その協力者とみなされる立場を取ったことでも知られる。第2次世界大戦後、パウンドはアメリカで13年間にわたって精神病院に拘禁されるが、その拘禁中に彼は、日本の能の形式での上演を夢見て、ソポクレスの悲劇『トラキスの女たち』を翻案・翻訳した作品を残した。自作への懐疑にとらわれ、ついに沈黙へといたる戦後のパウンドは『トラキスの女たち』に何を託したのか。本稿はパウンド版『トラキスの女たち』に、パウンドが自分自身の「悲劇」とどう向き合おうとしたのか、それを知る手掛かりを求める試みである。