著者
安野 修右
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1_293-1_315, 2019 (Released:2020-06-21)
参考文献数
56

本稿の目的は、1950年代における後援会普及と選挙運動規制との関係を考察することにある。通説によれば、50年代における後援会普及は同士討ちなどを引き起こす中選挙区制に原因があるとされている。だがこの理解は必ずしも当時の詳細な過程にもとづくものではなく、また理論的にも問題を抱えている。一方で後援会普及の原因としては、日本の厳格な選挙運動規制の存在を指摘する先行研究も少なからずある。ゆえに本稿は、選挙運動規制の観点から50年代の現象を捉えなおすため、双方とも深刻な政党内対立が生じたことで中選挙区制の影響が比較的共通しているとみなせる1952年総選挙及び1958年総選挙を対象としつつ、両選挙で展開された選挙キャンペーンの相違点を明らかにする。そして本稿の結論は、52年総選挙時において個人票獲得戦術や選挙区サービスに相当する 「事前運動」 の一形態に過ぎなかった後援会活動が、政治団体を介した寄附行為のみを合法とする1954年公職選挙法改正を直接的な契機として、1958年総選挙時には事前運動の主流として台頭したということである。
著者
安野 修右
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.58-71, 2021 (Released:2023-11-16)
参考文献数
40

日本の公職選挙法は,あらゆる選挙運動を禁止するという前提のもと,合法化された選挙運動には「選挙公営」の名のもと公的助成を行っている。この制度理念の背景には,国家が選挙過程を完全にコントロールすることで,選挙の公正を確保しようという戦前の思想がある。だが現在では,一連の規制枠組が日本の選挙過程を著しく非効率なものにしているという夥しい数の批判と証拠がある。にもかかわらず,選挙法の立法裁量権を掌握する現職国会議員は,この弊害を一向に改善しようとしない。この状態は,公共経済学で議論されている「政府の失敗」に類似している。そこで本研究では,まずこうした「政府の失敗」を生じさせうる日本の選挙運動規制の特徴について説明する。そのうえで現行の選挙公営費の配分が,現職国会議員の恣意的操作の結果として,選挙運動に使途を限定した政党助成とみなせるほど不平等になっている実態を明らかにする。