著者
渡邊 祥子 菊池 和也 内田 成男 宮下 正好
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.26, pp.122, 2010

【はじめに】GPA(Grade Point Average)制度を導入している日本の大学では,GPAが2.0未満であると指導強化や留年,退学勧告がなされる.本校理学療法学科においてもGPAが,進級や卒業判定の参考資料になるのではと考え試験的に導入している.今回2年終了時の通算GPAと,臨床実習や3年次定期試験との関連性について若干の知見を得たので報告する.<BR>【対象】本校の平成21年度卒業生(3期生)49名中,在籍期間3年で卒業し紙面にて本調査への理解と同意を得られた31名(男性21名,女性10名)を対象とした.卒業時の平均年齢は23.4±4.7歳であった.<BR>【方法】3年次の臨床実習にて複数回の実習地訪問が必要だった学生及び最終評定(本校算定基準に基づき学校側で評定)がCであった学生(以下実習群)と,そうでなかった学生(以下実習可群).卒業判定の基準となる最終学年次定期試験が1科目でも6割を満たさなかった学生(以下試験群)と,そうでなかった学生(以下試験可群)に分けた.GPAは成績評定のAを4,Bを3,Cを2,再試験にて合格したCを1として算出した.また2年次までの成績を基礎分野(心理学など),専門基礎分野(解剖学など),専門分野講義(評価学など),専門分野実習(評価学実習など)の4分野に分けて算出した.3年次の状況,科目分野を二次元配置分散分析と多重比較を用いて、有意水準5%にて検討した.<BR>【結果】3年次定期試験は状況の主効果,科目分野の主効果ともに有意な差が認められたが、交互作用は認められなかった.臨床実習では2つの主効果および交互作用すべて有意差が認められなかった.2年通算GPAは試験群2.52±0.26,試験可群3.09±0.43,実習群2.63±0.24,実習可群3.04±0.47であった.<BR>【考察】3年次定期試験はGPAが関係しているが,臨床実習はGPAだけではなく他の要因も関係すると思われる.しかしながら3年次問題なく遂行できるためには,それまでのGPA3.0以上が目安になるのではないかと考える.今後は対象者を増やし,GPAと臨床実習,最終試験との相関性を調査したい.
著者
鈴木 里砂 宮下 正好 内田 成男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】理学療法教育において,臨床実習成績評定は施設間格差や妥当性について問題となることがある。また,実習中は学内と環境が変化し,学内の様子だけでは予想がつかなかった困難にあたることもある。我々は,学生の実習不安についての研究を実施してきたが,実習中の学生が持つ不安の原因に個々の学生のパーソナリティや自己教育能力に関連がある可能性を指摘してきた。今回,実習成績と,指導者による印象評定,学内成績,学生の自己教育能力との関連について検討し,臨床実習成績と学内成績との関連性を明らかにし,臨床実習での成績不良の危険因子を探ることで,学内において早期に学生の学外教育時の問題を明確化し対策を行うため,調査を実施したので報告する。【方法】対象は3年制理学療法学科2学年の学生54名であり,臨床評価実習(4週間実施)終了後,初登校時にアンケート調査を実施した。アンケート調査は,自己教育能力尺度として自己教育力調査票(Questionnaire Concerning Self-educational Ability)を利用し,成長・発達への志向,自己の対象化と統制,学習の技能と基盤,自信プライド安定性の4つのカテゴリー得点を算出した。学内成績に関しては,2学年の総合成績としてGPA(Grade Point Average)4.00を満点とした場合の割合で80%以上のものをA,70%以上のものをB,60%以上のものをC,それ以下をFとして分類し数量化した。また,当該校では臨床実習成績として情意面10項目,基本技能5項目,検査測定技能9項目,思考過程4項目,認知領域4項目,記録4項目の36項目についてそれぞれ4段階(A,B,C,F)で評定されたものを4,3,2,0点で数値化した合計点とし,最終的に80%の得点率のものをA,70%以上のものをB,60%以上のものをC,それ以下をFと規定しており,これを臨床実習評定として利用した。また,臨床実習指導者の主観により学生の全般的な印象を適正や将来性も含めをA,B,C,Fの4段階で評定しており,これを印象評定として数値化し利用した。分析は,統計ソフトMulcelを使用し,外的基準は対象者の臨床実習4週終了後の実習成績,印象評定とした。群判別するために多変量解析の数量化II類を用いて臨床実習成績に影響を与える因子の重さを求めた。【結果】数量化II類にて 外的基準を臨床実習成績とした結果は,相関比は0.9621(第1軸),レンジが広い順に,学内成績(偏相関係数,レンジ:0.9752,6.851),自信プライド・安定性(偏相関係数,レンジ:0.9181,4.027),成長・発達への志向(0.9451,3.325),自己の対象化と統制(0.9419,2.90),学習の技能と基盤(0.9124,1.831)の順であった。また,外的基準を印象評定とした場合は,相関比は0.7702(第1軸),レンジが広いアイテム順に,自信プライド・安定性(偏相関係数,レンジ:0.8237,5.009),成長・発達への志向(0.7434,4.770),自己の対象化と統制(0.7932,2.4859),学習の技能と基盤(0.7238,1.822),学内成績(偏相関係数,レンジ:0.4659,1.652)の順であった。【考察】当該校では,指導の種類・頻度によって基準を明確化し32項目での評定を行うように依頼している。この成績評定方法は学内成績との関連が高いことが明らかとなった。学内成績と臨床実習成績の乖離を防止するためには,臨床実習指導者会議にて細項目の成績判定基準を明確化し,各施設での評定の均一化を実施していくことが有効であると示唆された。また,指導者の印象評定との関連は,学内成績よりも,自信プライド・安定性,成長・発達への志向の方が強いと考えられた。自信プライド・安定性は,理学療法士として職務に取り組むための適正を示す指標と考えられる。また,単独で臨床実習施設で取り組むことが多い臨床実習の形態では,やる気を示すことが重要で指導者はこれらを主に評定基準として重要視している可能性が認められた。学内教育においては,成績評価を筆記試験のみでなく,実習授業での行動観察を加味し,学生の志向を適正に反映することで,早期に臨床上での学生の問題点を明るみにすることが可能であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】臨床実習の成績評定は,基準を明確化することで学内教育との解離を防ぐことができることが示唆された。また,臨床での適正を教育するには学外教育に移行するまでに早期に学生の成長志向を育むことが重要であることが示唆された。