著者
今川 孝太郎 宮坂 宗男
出版者
Japan Society for Laser Surgery and Medicine
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.444-451, 2012-02-15 (Released:2014-02-05)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

自然科学において,光は電磁波の一種と位置付けられ,紫外線,可視光線,赤外線が含まれる.光が物質に吸収されて起こる反応には,光化学作用と光熱作用がある.紫外線は光化学作用,可視光線・赤外線は主に光熱作用を起こす.皮膚に与える影響として,紫外線は細胞障害による皮膚癌,光老化の原因となるので,過度の紫外線暴露は避けるべきと考えられている.一方で光は様々な皮膚疾患の治療に応用されている.光化学作用を利用した治療には紫外線療法,光線力学療法があり,異常細胞のDNA破壊,アポトーシスの誘導が主な作用機序である.光熱作用を利用した治療には可視光線・赤外線領域の波長のレーザー,光線治療器がある.波長の種類,照射の強度により目的は様々であるが,標的組織の破壊や温熱作用による細胞の活性化などに利用される.光は波長の違いにより深達度,吸収される物質が異なる.光を用いた治療を安全にかつ効果的に行うには,これらの点を踏まえて治療機器を選択することになる.そのためには,基本的な皮膚構造の理解と,正確な診断をすることが必要不可欠である.
著者
宮坂 宗男 谷野 隆三郎 長田 光博 若木 守明
出版者
日レ医誌
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.117-127, 1991
被引用文献数
2

色素沈着性皮膚疾患に対するレーザー治療で重要なことは, レーザー光線の波長, エネルギー密度, 照射時間 (パルス幅), 治療間隔, 治療方法 (例えばレーザー照射後直ちに2回自の照射を行うような方法) 等についてそれぞれの最適条件, 治療方法の決定である。われわれは, 色素レーザー (585nm), ルビーレーザー (694.3nm), アレキサンドライトレーザー (750nm), Nd-ガラスレーザー (1060nm) を用いて有色モルモット皮膚および臨床的応用を目的とした照射を行い, 異なる波長のパルスレーザーによる影響の違いを調べた。その結果メラニン沈着性皮膚疾患に対してはルビーレーザー, アレキサンドライトレーザーが有効であり, 刺青に対しては, Nd-ガラスレーザーが有効であった。パルス幅に関する検討は, ルビーレーザーにてパルス幅0.15~2msec. までを鋤較検討した。その結果パルス幅が短くなるほど表皮基底層のメラニン顆粒沈着部の選択的破壊が見られた。エネルギー密度に関する検討において, ある閾値以上になると組織の非選択的破壊が起こり本来のレーザーの目指す選択的効果が減少することを認めた。また過去10年間にルビーレーザー治療を行い治療後6ヶ月以上経過観察できた645症例について検討した。その結果, 有効率は先天性扁平母斑45%, 後天性扁平母斑 (Becker) 94%, 母斑細胞母斑50%, 表皮母斑80%老人性色素斑59%, 脂漏性角化症69%, カフェ・オレ斑22%, 太田母斑38%, であった。母斑細胞母斑では眼瞼周囲, 手掌, 足底, 口唇部においては84%と非常に高い有効率であった。パルス幅450μsec., 15J/cm<SUP>2</SUP>では表在性色素病変に対する治療効果はパスル幅の長い従来のルビーレーザー装置に比べその治療効果は低かった。以上のことより表在性色素沈着性皮膚疾患に対するレーザー治療は, パルス幅が短く波長の短い可視領域のレーザーが適していると考えられる。深在性のメラニン沈着性皮膚疾患に対しては, パルス幅の短いルビーレーザーか, アレキサンドライトレーザーが良いと考えられる。日本人の刺青には, パルス幅の短いNd-ガラスレーザーが適していると思われる。